東日本大震災を契機に、自由民主党が今国会へ「国土強靭(きょうじん)化基本法案」の提出を決めるなど、集中投資による強靭な国土形成に向けた動きが加速しつつある。そんな中、震災前から集中投資によるデフレ脱却を訴えてきた藤井聡京都大学大学院教授に、「これからの建設業が生き残っていくためには、何をすべきか」を聞いた。藤井氏は、建設業など民間企業からの努力ではなく、国による公共事業への集中投資が大前提と強調。「公共投資20兆円を5年くらいかけ、100兆円ほど注入すれば、デフレは止まる」と述べた。そして建設業に対しては、「公共事業への集中投資を推進する政治家を徹底的に応援し、世論形成へ決意を示すこと。それが、ひいては日本を救うことにつながる」と語気を強めた。
―いま建設業にできることはあるのか。
藤井 官需も民需も冷え込んでいると建設業は何もできない。官需の冷え込む原因は緊縮財政で、民需はデフレ。デフレで先行き不安を抱えているため民間は投資できない。投資の中で最も大きいのは建設投資。そのためデフレになると必然的に建設投資もしぼむ。そのデフレを止めることも、公共投資を増やさせることも、地域の建設業には限界がある。それを行うのは建設業ではなく政府である。
―では政府が行うべきこととは
藤井 この状況を打開するのは非常に簡単。第一に必要な公共事業は何かを考え、優先順位を決めていけば良い。首都直下型地震で茨城は被害が少ないと考えられるので、対策基地をこちらに考えるとか、合理的な建設投資はいくらでもある。
そして、公共投資20兆円を5年くらいかけて、100兆円くらい注入すれば、デフレは止まる。1990年代前半のバブル崩壊後、公共事業に投資しても解消しなかったが、あれはたった10兆円程度を6~7年程度しかやっていないから。そもそも、あのとき巨大なデフレギャップができたのに、あの程度の公共投資ではどうしようもなかった。
日本は言わば脱水症状。だから水を飲ませても仕方がない。強制的に栄養分、水分を点滴で注入しないといけない重篤な状況。その点滴は1、2兆円を3年かけても直らない。もう十分というくらい点滴を打てば健康になる。
そんな荒療治が処方箋となる。前者の処方箋と後者の処方箋をピタリと一致させてやれば良い。前者は、必要な公共事業を考えるという「施設効果」(ストック効果)。後者は、物を造ることが日本経済を良くするのに必要だという「事業効果」(フロー効果)である。
―今後、建設業は何をすべきか。
藤井 公共事業を推進するような政局形成に尽力することが大切。建設業者も国民を形成する一人。投票権を持っているし組織力もある。組織を挙げて日本の国を守るためにそういうことをやる運動をすれば良い。「また土建屋が利権に群がるのか」と言われても関係ない。それをやることで、日本を救うことにつながるのだから。
わたしと同じ考えを持つ政治家を徹底的に応援し、そういうことを言わない政治家を徹底的に糾弾すべき。そして多くの国民にも、何が真実かを徹底的に知らしめ続ける。そして、日本国民としてそういう世論を形成すべきと決意を示すこと。それが希望につながる。
ふじい・さとし 1968年奈良県出身。京都大学京都大学卒業後、同大学助手、助教授、東京工業大学教授などを経て現職。著書は『列島強靱化論』『公共事業が日本を救う』『なぜ正直者は得をするのか』など。表現者塾(西部邁・にしべすすむ塾長)出身。
【写真=藤井聡教授】