4月に県土整備部長に就任した上田仁氏。山梨建設新聞のインタビューに応じ、組織づくりの考え方や当面する県政課題などについて語った。自身の部下を「宝」と表現するなど、人を大切にする優しい人柄が感じられた。
--部長就任の感想を
まずはじめに思うのは責任重大だということ。部の最終的な判断、回答をする役目であると認識している。ただ何でも私一人で判断できる能力はない。私の部下は優秀だと思っているから、何か判断するにも回答するにも部下のいうことをよく聞いてやっていこうと思う。
--組織づくりで気をつけていきたいことは
何と言っても部下は宝だと思っている。誰しも様々な経験と知識を得て一人前になっていくもの。そのためには、まずは風通しの良い環境をつくり、よく話しを聞いてあげることが重要だ。部下の声が上がってこなくなるのが一番良くない。ひとりで問題を抱え込み先送りすると被害は大きくなっていく。時間が解決してくれることであればいいが、時間が経てば悪化するのが世の中の常。報告や相談があれば対策も打てる。責任は上が取る。だから入ったばかりの若い人まで相談しやすい体制をつくっていきたい。悪い情報ほど早くあがってくる方がいいと考えている。
--山梨県に必要なインフラを挙げると
まずは国やNEXCOが建設を進める中部横断道を、今年を入れて5年後に開通できるようにしてもらいたい。県施工では新山梨環状道路。これは1周約40㎞を30分でまわることができる。これを10年後をメドに完成させたい。自動車専用道は圧倒的に事故率が低く、沿線の交通が環状道路に流れることで事故が減少する効果も期待できる。今後は5年後に中部横断道、その5年後に環状道路、さらにその5年後にリニアがくればインフラがある程度整ってくる。
--笹子トンネル事故で感じたことは
自分たちがつくったもの、人工的につくったものが人の命を奪ってしまったことに大きなショックを受けた。法面から石が落ちてきたとか自然のものが風化してということはあったが、今回の場合つくったものがそのまま加害者になった。NEXCO管理とはいえ、我々も教訓になった。今後は県内のインフラの総点検を行い、必要な対策を講じていく。
--愛宕、新御坂トンネルの天井板撤去を決めました
笹子トンネルでは天井板をとめていたケミカルの劣化が問題視された。愛宕トンネルも同じケミカルアンカーを使っているが、新御坂トンネルは別で、ホールインアンカーで天井板をとめてある。笹子の天井板は1枚1・2t。対し愛宕は80㎏、新御坂は60㎏くらいと笹子に比べ軽い。無論、だからといって落ちていいという訳ではないが現状でも安全ではある。ただ安全と安心は違う。通る人が安心できるよう撤去することにした。今は車の性能がいいから天井板がなくてもジェットファンなどで対応できる。
--災害に対する備えは
昨年も台風などにより峡南地域では被害が出た。ただ集中豪雨については、これまでも対策を進めてきており、その対策の蓄積により対応ができていると感じている。やはり怖いのは瞬間的に被害をもたらす地震。首都直下型とか東海とか言われているが、釜無川付近にも断層があり山梨県が震源になる可能性だってある。それが一番心配だ。本県は山で囲まれているため助けてもらいにくい地形。そのため緊急の避難や応援に必要なインフラを整備しておくことは不可欠。中央道を東西、中部横断道を南北のアクセス道路と位置づけ、これらを中心に太い道を確保しておく必要がある。
--入札制度についての考えは
競争性や透明性は確保しなければならない。そのために総合評価も積極的に導入しているところだ。しかし、だからといって全ての地域から参加可能にしてしまえば山梨県の業者はいなくなる。では災害があった時に誰が道を通れるようにするのか。誰もやる人がいない社会は安全安心な社会と言えるのか。その点からも地元業者には生き残ってもらう必要がある。公共事業で食べている業者は災害があった時にはがんばってもらいたい。それが責務とまでは言わないが、そういう義理はあっていいと思う。
--建設業を取り巻く状況は
品確法で技術屋をかなり縛ってしまったから、人をかかえている業者はかなり大変だと思う。今は1人の技術者が2つ、3つ現場をもつことができない。大型補正に限り緩和措置をとることができたが、それ以外は技術者の人数分しか仕事がとれない。品確法に加え全体の事業量も減ったことで、さらに厳しさが増していると感じている。
--昨年度、国の大型補正がありました
昨年度の補正分はまだこれから、たくさん発注が控えている。上半期中には全部出す予定だが並行して本年度予算の工事も出さなければならない。ただ本年度分については例年通り上半期に7割とかは無理。出す方もだが、受ける方も無理だろう。たくさん出すのはいいが、不調がたくさん出ることが心配だ。業界とよく話し合いながら発注方法を検討していきたい。
--公共事業による経済活性化は
経済対策というとお金が流れればいいという感じがするが、公共事業による経済対策の効果は直接お金が労働者に渡り、買い物が増えるといったことだけではない。モノをつくることにより便利になり、安全になり、活力を生むという「ストック効果」も重要。便利になれば人が住み工場の誘致も進む可能性もある。10年、20年という長い期間をかけて効果が現れてくるものある。すぐに効果がでなくても、必要な基盤づくりをすることは大切だ。
--休日の過ごし方は
うちの畑でトマトをつくっている。種から育てているが結構難しい。小さいのは簡単だが大きいのをつくるのは大変だ。10数年つくっているがなかなか上手くいかない。知り合いに配って「うまい」といわれるのを思い浮かべ面倒な作業もやっている。温泉も好きでよく行く。畑をやって、温泉に入って、ビールを飲むのが最高だ。