関東地方整備局の深澤淳志局長は4日、日本工業経済新聞社が加盟している竹芝記者クラブの共同インタビューの中で「発注行政と建設業行政のかなりの部分がオーバーラップしてきている」との見解を示した。総合評価方式についても価格と品質に加え、「国土を守る」といった視点も含めた総合的な発注との解釈を披露した。
基本的な考え方として「もともと発注行政と業行政があり、どちらも大事」とした上で、「良いものを適正な価格で造ってもらうことが発注行政のメーンテーマ。昔は建設業行政と車の両輪だったが、(業界が)これだけ疲弊してくると、受注してくれる人がいなくなったら、発注行政そのものが成り立たない。災害対応を含めて、地域の建設業者がいなくなったら、日本を守っていけない」と話している。
総合評価は「価格、技術に加え、国土を守るなどの面を含めて総合的に判断し、頑張ってもらいたい人に発注するという意味の総合評価、総合的な選定をしなければいけない」とし、そのためには「当然、地域要件も入ってくる。総合的に良い人を選ぶ時に、果たして一般競争だけで良いのか、そのあたりも含めてよく考えたい」との見解を示した。
また「今まで本省で技術審議官をやっており色々な議論があったが、現場に来たので、地域の方々の意見をよく聞き、課題を具体的な形で知りながら、実際の仕事をしていきたい」と述べる。各県建設業協会などから寄せられる要望についても、「全国統一的な内容で本省で判断しなければできないものもあるが、中には整備局レベルで工夫をすればできることもある。そういうものについては、整備局でどんどん実験的にチャレンジしていきたい」と意欲を示した。
建設ICTの普及拡大については「ICTは手段であって、目的は建設生産システムをいかに効率化、合理化するか。CALS/ECの延長線上がCIMだと考えている。やった結果、我々の仕事のどこがどう効率化するのかという部分が、十分に議論できていなかった。現場からの具体的なニーズを満たすICTを導入していきたい」としている。
新規入職者の確保、若手技術者育成に関しては「魅力のある産業にならなければならない」とした上で、キーワードとして「希望」「期待」を提示。希望は「10年後も自分たちの仕事があるという見通し」などで、期待に関しては「世の中から期待されていることが大事。土木も建築も本当に大切なのに、土建と言った途端にイメージが悪くなるのは、とても心外なこと。いかに役立っているかということを、官民が力を合わせて情報発信していくことが大事」と語っている。
関連して「設計(コンサルタント)、施工(ゼネコン)、官庁という三種類の技術者の役割分担は決して固定的ではなく、仕事の内容によって色々と変わるはず。今まで官庁がやっていた部分でコンサルタントにお手伝いしていただく場面もあれば、逆にコンサルタントと施工者とが共同してやった方が良い場面もある。三種類の技術者が共に働くことで、新しい分野の仕事が出てくるのではないか。官庁にとっても、新しい仕事のやり方が出てくる。そういうことを通じながら、若い人が入ってくる産業にしていければ良い」と話している。
インフラ整備の必要性に関する情報発信についても「例えば環状道路の各国の整備状況を示す資料があるが、パリや北京などに比べ、日本ではまだつながっていないというアプローチだけでは駄目」と断じる。
本当に世の中の人に理解してもらおうと思うならば「つながっていないからこういう問題が起きている、つながれば渋滞が減り、工場が立地するなど、生活者の視点で言わないと必要性にならない」と主張。これは「常に受け手側の立場で言わないと、造りたいからだろう思われがちになってしまう」との問題意識からの発想だ。
八ッ場ダム建設については治水、利水の面からの重要性を唱えた上で「沢山の方々のご苦労の結果、ようやく来年度、本体工事に着工できるところまできた。関係知事の方々も非常に期待している。遅れた分、なるべく早く取り戻したい」と意欲を示した。
【略歴】
ふかさわ・あつし
東京大学工学部卒。1979年建設省。国交省近畿整備局企画部長、道路局国道・防災課長、官房技術審議官などを経て、8月より現職。長野県長野市出身、56歳。趣味は街歩き、読書。また新しくて楽しい雑貨が多く揃えてあるため「東急ハンズが大好き」。
【写真=「発注行政と産業政策という両輪がオーバーラップしてきている」と話す深澤淳志関東整備局長】