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国土交通省

森昌文技術審議官インタビュー

2014/03/05 本社配信

 公共工事品確法の改正に先立ち、国土交通省は発注者のトップランナーとして多様な入札契約方式の検討を進めている。日本工業経済新聞社では発注行政を指揮する森昌文(もり・まさふみ)技術審議官にインタビューし、若手技術者活用型などの展望を聞いた。森技術審議官は工事の参加資格要件の審査や総合評価において過度に監理技術者の実績重視となっているものを見直す必要があると言及。入札時に監理技術者の経験値の評価ウエートが増して高齢化が進むという現行のスパイラルに楔を打ち込み、若手を評価できる仕組みを構築することに意欲をみせた。




 ―技術提案競争・交渉方式の適用の方向性は


 森 今までの高度技術提案型のように難易度の高い工事での適用と、修繕工事での適用の両方を考えている。有識者会議(発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会)においても、実際に施工に着手してみないと仕様がはっきりしないといった工事に対して有効という議論がされている。まずは技術提案を審査する仕組みづくりをどうしていくのかを詰める。受発注者に過度な手間をかけずに、民間企業の優れた技術力を活用し、かつ、工事の品質を確保するという交渉方式の目的に照らして考えれば、手続きを沢山踏んで運用するのは本末転倒になってしまう。技術審査の仕組みをどうしていくのかは、これからの大きな検討課題。基本的な考え方を整理し、第三者委員会などの運用の仕方、また工事の適用条件などを考えていく。


 ―各整備局で若手技術者活用型の試行が進んでいるが、今後の展望は


 森 今の総合評価は、監理技術者の経験値の評価ウエートが大きい。そのため、ベテランの高齢者や現場経験を沢山積んだ方が監理技術者として配置され、その方の経験値がますます高まるという循環を引き起こしている可能性がある。できるだけ若い技術者を活用できる仕組みを考えていきたい。例えば、工事の参加資格要件の審査や総合評価において過度に監理技術者の実績重視となっているものを見直す必要があるのではないかと考えている。


 ―本格運用を開始した施工能力評価型について。一部で受注者が固定化しているという声がある


 森 実績のない企業もチャレンジできるように考えていかなければならない。まずは、都道府県や高速道路会社などの実績も評価するようにしていく。例えば下水道や建築などもあり得るが、これらも評価していく場合は、実績や成績の調整が必要になる。各発注者の工事成績評定点のつけ方を一定レベルで統一し、同じ範囲で評価されているのであれば、相互に適用できる。今も一部の地方整備局では、都道府県の工事成績評定点で一定の基準点以上のものを評価する試行をしている。その基準点を設定するのが難しいのだが、一定レベルの範囲内の中で納まる評価の仕方ができれば、成績データを相互に融通できるようになり、これまで都道府県で活躍していた企業が国の工事にも参入できるということにつながっていく。また成績評定を付けていない自治体もあるが、これからは付けていただくことがますます必要になってくる。品質確保のために出来上がりの評価は重要で、入口で手間をかけるよりも出口で評価していければと考えている。個人的な考えだが、工事一件だけではなく、工種や構造物の一つひとつを評価できれば、下請をきちんと評価できることにつながるのではないか。工事全体を支えてくれているそれぞれの皆さんをきちんと評価することができれば、実績のない企業の参入機会を増やすこともできるはず。品質を確保しつつチャレンジャーも活躍できる評価の仕組みは必要だと考えている。


 ―積算のあり方について。見積活用方式の展望は


 森 現状で不調不落が頻発しているのであれば、課題を早く見つけて、歩掛などを変更するのが定石。価格があまりにも乱高下していたり、あるいは施工内容の部分的な中身で、高いものから安いものまで非常に差があるようなスペックが積算の中に混ざり込んでいるケースなどでは、その部分だけ切り離して、スペックをはっきりさせた上で見積をもらう。ただ見積活用は受発注者ともに手間もかかるので、あまり発注のところで負担をかけないようにする仕組みを考えていかなければならない。


 ―施工パッケージ型積算の拡大について


 森 当初の積算に多大な労力をかけるのは効率的でないので、受発注者の負担を軽減するためにも、施工パッケージ型積算を進めていくことになる。ただデメリットもあって、パッケージで大括りにすればするほど積算は効率化するが、一方で、現場での施工の具体的内容がどうなっているのかを頭に描いての積算ができなくなってしまう。パソコンのデータ入力だけの世界になる面がある。例えば除雪工事でも、トラック、グレーダ、ロータリーを使ってどう除雪作業を進めるのかを考えることは、積算とタイアップしている。それを思い浮かべることのできるようなものでなければならないとも思っている。


 ―そうした考えを踏まえた予定価格、積算のあり方は


 森 一つの案だが、当初の現場条件が途中で大きく変わることが想定される工事、あるいは現場の環境状況によっては、大きく積算の中身が変わってしまう工事では、施工パッケージよりも概略積算で発注し、実際にある程度現場の条件が固まった段階で、数量確認し、精算する。現場が変わるような工事で当初に施工パッケージで積算しても、実は無駄な部分がある。最初は本当の概略積算で発注して、数量積算し、精算変更するという三段階を経て積算するやり方が考えられるのではないか。現場条件によってどの積算方法にするのかを明示して、多段階の積算と施工パッケージ型積算とを使い分けながら発注していく。多段階の場合、二段回目の数量積算で、施工状況を頭に描きながら積算するフェーズをつくる。施工パッケージが進んだからといって、昔の積算体系がなくなっているわけではない。工事の内容や状況によって積算を組み合わせて、場合によっては若手職員を配置して経験を積ませるということもできるのではないか。施工者がどういう技術力で、また、でき上がりの確度をどれくらい持ってやっていただけるかというのを当初に決めているのが予定価格。その通りに完璧にものが出来上がるかというのは、また別の話。最後はかかった費用をみるというのが基本なので、当初積算と最後の精算変更による積算は違うものであって構わない。



【写真=監理技術者評価重視の見直しに言及する森昌文技術審議官】

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