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佐々木基国土交通審議官インタビュー

2014/04/17 本社配信

 入札不調対策を講じることなどを目的として、国土交通省では太田昭宏大臣の指示の下、2月に施工確保対策本部という内部組織を設置した。メンバーは高木毅副大臣、土井亨政務官のほか、事務次官、技監、国土交通審議官、土地・建設産業局長、自動車交通局長、技術審議官ら関係幹部で構成。毎月一回の会合で、全国各地の不調発生状況などを確認し、対策につなげていく。日本工業経済新聞社では同本部の全体調整を担っている佐々木基(ささき・もとい)国土交通審議官にインタビューし、活動状況や施工確保に向けた考えを聞いた。





 ―施工確保対策本部が設置された背景は


 佐々木 現在、確実に公共事業を執行することにより、デフレから脱却して経済を成長させていくことが強く求められている。そのため入札不調ができるだけ生じないよう現場の状況を正確に把握し、その上で一つひとつについて原因を究明、必要があれば対策を講じていくために設置した。全国の入札不調の状況をみると、今一番問題になっているのは、地方公共団体が発注する建築工事。土木については設計労務単価の引き上げなどが功を奏して、発注価格と企業の見積もりが一致してきた。一方、公共建築については従前のやり方で予定価格を設定している場合が多いので、今のインフレ局面では、全然価格が合わなくて不調になっている例が多い。予定価格を組んだ時よりも、時間が経過して工事に入る時の方が価格が下がっていたデフレ時代とは大きく変わってきている。また、今までは仕事量が少なかったので、例え価格が低くても、仕事を選べなかったが、最近はほかにも仕事が出てきているので、価格が折り合わなければ、無理をして赤字の仕事をする必要はないという状況になっている。


 ―そうした背景から、官庁営繕部でも公共建築工事の施工確保策を打ち出している


 佐々木 今年に入り、営繕部で各地方整備局に公共建築相談窓口を設けた。自治体などからの問い合わせが300件以上寄せられている。内容は最新単価による予定価格の組み方や、スライド条項の運用方法などについてが多い。また施工確保対策本部の立ち上げに合わせて、自治体で不調が発生した際に営繕部が任意で最新単価徹底などが行われているか聞き取りしている。こうした取り組みから、予算の制約はあるものの、不調を防止するための共通認識が各発注者に広がってきている。


 ―対策本部で入札不調の情報をどう把握していくのか


 佐々木 不調発生率がどれくらいの数字というだけではなく、具体的な原因を捕捉していく。どこかの市町村で一件の大きな建築工事が不調になると、それがあたかも全体で不調がまん延しているように思われがちだが、決してそんなことはない。どこに原因があるのかを個々の案件について捕捉しないと、解決策は打ち出せない。例えば労務単価を機動的に見直して実勢価格を反映させたり、施工中の資材の上昇などについてはスライド条項がきちんと運用されるということが認識されれば、企業側にとっても安心感が出て入札に参加できるようになる。


 ―労務単価については、毎年一回の改定という概念が変わりつつある


 佐々木 労務費が下がり続けている時は、一年に複数回調べても意味はない。しかし、現在のような大幅な上昇局面の場合、単価を決めて一年間固定してしまうと実勢価格との乖離が大きくなり、不調も起きやすくなるので、適宜見直していこうとしている。できるだけ予定価格を実勢価格に合わせていくことが必要だが労務費調査はかなり大規模に行うので、物理的に毎月できるというものでもない。ある程度の間隔が空くのは仕方がない。去年から、3か月ごとに厚生労働省のデータなどからしっかり追跡はしているが、今は上昇局面なので、半年に一度はきちんと調査をした方が良いという考えから、7月にも労務費調査をする。そこで一定の上昇が確認されれば、労務単価を見直していくことになろう。


 ―2014年度の事業執行をどう進めていくか


 佐々木 これまでも、例え不調になった場合でも発注ロット拡大などの工夫により、ほとんどの工事が二回目以降の入札で契約できている状況にあった。昨年度予算執行は大型補正の影響があったり当初予算成立が遅れたりという状況だったが、それに比べると、本年度は工事量からしても、十分にこなせるはず。楽観はしていないが、早期執行目標の6月末までに4割以上、9月末までに6割以上という数字は対応できると考えている。


 ―建設産業活性化会議について。夏に中間とりまとめを予定しているが、検討状況は


 佐々木 単に今年度の予算執行のためということではなく、将来にわたる人材の確保、育成のため、建設産業活性化会議を設け、これまでの会合では、有識者や、実際に建設業を営んでいる方からヒアリングをしてきた。その中で、魅力のある産業にしていくためには、賃金や休日などの就労環境や社会保険加入の重要性が指摘されている。社会保険の加入については、単に職人の方々の生涯を安定したものにするということだけでなく、若い人を自社で雇用し育てていく流れとなり、重層下請構造の産業構造を変えていくという可能性を秘めた政策だと思う。会議については、これからとりまとめをしていくに際し、色々なテーマが出てくるだろう。女性の活用や教育のあり方などもその一つ。一企業だけではできない大きなテーマなので、業界全体でとらえる必要がある。2020年のオリンピック以降、団塊の世代が退出していった時に急減する技能者、担い手をどうするか。小手先で済まない難しいテーマになる。やがては他産業でも必ず出てくる問題だが、建設業が先行している状況にあり、きちんとした対策が必要だ。



【写真=施工確保対策本部の活動状況を話す佐々木基国土交通審議官】

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