記事

事業者
(一財)建設経済研究所

中小建設業の先進的集団/「鹿児島建築市場」の実証実験/建設業コスト管理合理化報告で

2004/09/15 本社配信

 厳しい企業運営が続く全国の中小建設業の中で、先進的な企業集団「鹿児島建築市場」が注目を浴びている。この集団は、鹿児島県内の中小工務店、専門工事会社など約160社がITを高度に利用したネットワークによるバーチャルグループである。従来、各工務店が個別に行っていた顧客対応、積算・見積、設計、専門工事会社への発注、資材調達、施工管理などの業務・機能を分解し、各機能を担うセンターなどに集約するとともに、各センターをイントラネットでつなぎ、図面や仕様書、工程表、調達状況などをWebで閲覧できるなど、ITを活用することにより協業化を行っている。

 この極めて革新的な取り組みは、このほど建設経済研究所と早稲田大学アジア太平洋研究センターによって取りまとめられた「建設業のコスト管理合理化等に関するシステムの実証実験」報告書で言及されている。「鹿児島建築市場」では、顧客(建て主)と施工者の間に公正な第三者を介して、建て主から代金を預かり、施工した出来高に応じて代金を支払っていく仕組みであるエスクロウ金融による与信の獲得も実現した。この金融方式が成立すれば、建設業の資金繰りの難しさは格段に改善され、同時に発注者側のリスクも解消される。また、同グループでは、資材の購入代金を、納入された時点で即現金で支払う手形レスの合理的な決済の仕組みであるファクタリングの活用も検討している。

 今回の実証実験では▽鹿児島建築市場においてエスクロウ金融が成立し得た要件が何なのかを明らかにすること▽エスクロウ金融が一層効率的になり、広く実施されていくための課題の抽出、改良の提言▽ファクタリングの仕組みの課題の抽出と構築の支援▽同グループが与信を獲得した要件の考察を通じて、木造住宅に限らず、広く建設業全体へも適応できるコスト管理の合理化と建設産業の構造改善への道筋の提言、を目的として行われた。

 実証実験によるエスクロウ金融の効果として、建て主は工事過程での過払いリスク削減、つなぎ融資の金利の軽減(通常の4%台から2・875%へ)、設計・積算情報の透明化、契約内容の明確化、住宅の品質の確保、建設会社は与信の拡大、経営安定化、完成保証の費用の軽減、顧客の信頼性向上、専門工事会社は工事代金の確実な回収、元請からの経営的自立、工事品質の向上、資材メーカーは資材代金の確実な回収、先行受注による経費削減、与信リスクの減少、建設業全般では建設業の構造改革への好影響などが図られる。また、残された課題として、エスクロウ機関の業務効率化、出来高の検査費用の削減、ファクタリングにおける融資機能のリスクの解消などがあげられている。

 「鹿児島建築市場」は、国土交通省が地域の中小建設業のあり方の1つとして検討している「本社機能の柔軟な連合体づくり」にも合致している。この連合体は、経営統合のように経営主体そのものを変えるのではなく、各企業の自立性を維持しながら、連携、協業化を通じて改革を進めようとするものである。同報告書では、この連合体づくりについて「中小建設業にとっては、ライバルであり、競争してきた他社と設計や調達という重要な分野で連携することは、従来の常識からは考えにくいことであったが、1社単独では経営資源に乏しく、合理化努力に限界があるとすれば、鹿児島モデルにみられるような企業間の自立的な柔らかい連携がぜひとも必要であろう」と述べている。



紙媒体での情報収集をご希望の方は
建設新聞を御覧ください。

建設新聞はこちら