―改正品確法など担い手三法が施行された中、2015年の展望は
佐々木 これまで約20年間デフレが続き、建設業が疲弊してきた。一方でこれから先を見ると、構造的に人口が減っていく。まさにそういう時代に入り、今年を含めてこの数年間が、将来を決めていく非常に大事な時期だと認識している。当たり前の世界に戻すことが重要。つまり公共投資やそれを担う建設業というのは、古今東西、いつの時代でも必要で、インフラに関する投資が急に減るというのは異常なことだった。デフレの時代、その当たり前のことを軽視し過ぎた。その結果、民間投資も含めてインフラを担うべき建設産業から、企業も人も離れてしまった。これから人口減少の中でどうやって日本を成長させていくか、また大きな災害も想定される中で、建設産業の役割は非常に重要。その産業を疲弊させてしまったという反省から、当たり前の世界にしていかなければならないわけで、もはや、放っておいてもそのうちに何とかなるという段階ではない。今が最後のチャンスという危機感を共有して、克服するために動き出すのが、ここ数年。当たり前の産業とは何かと言えば、将来的に仕事の見通しがたって、その産業をきちんと支える人が一定程度いてくれるという状況。今のままでは支えてくれる人がいなくなってしまうという危惧がある。女性の一層の活用や外国人の人材活用を打ち出しているのも、恒常的に産業界を担う人を育てていかなければならないということの表れ。構造的な人口減少時代においては、産業間で必死に若い人を取り合うことになる。建設産業もどうやって若い人に入職してもらうかということを、ようやく真剣に考え始めた。設計労務単価も市場で求められる価格をしっかり反映させる。また社会保険加入も当然の環境整備として進める。また品確法など担い手三法によりダンピングなどを改めて、当たり前の企業環境にすることで、人を呼び戻していく。これらを合わせて、建設産業を強くしていく必要がある。
―社会保険未加入対策について
佐々木 2017年度には許可業者の企業単位で100%、個人単位でも製造業並みの約9割加入を目標にしている。最近は加入率が伸びているが、未加入が常態だったことがおかしい。右肩下がりの時は仕事がなくて人が雇えない、まして社会保険など入れないという感じがあった。ただ、今後ほかの産業と競争していくためには、働く基盤を同一にしないと話にならない。さらに、この政策には副次的な効果もある。昔から専門工事業の方々は、福利厚生費の別枠支給を主張していたが、いざそれをやろうと思うと、自社にどれくらいの福利厚生費が必要かわかっていることが必要。福利厚生費をはじき出して見積書を作成できなければいけないことがわかり、しっかりした経理の必要性に気付き、業界が近代化する。また企業も負担して社会保険に入るということは、職人の
社員化の方向に動いていく。そうすると日本の建設産業の大きな課題である重層下請構造の改善につながっていく。労働力が潤沢でダンピングが横行し、仕事の繁閑が激しかった時代は経済的合理性があったことも、人口減少社会では逆に合理性を欠いてくる。時代の局面が変わってきて、新しい時代に適合した産業のあり方を真剣に考えていかなければならない。建設産業が崩壊すると、この国は滅びると言っても過言ではないので、何としても再生していかねばならない。
―担い手三法の実行に向けて
佐々木 昨年は制度が大きく変わった年だったので、2015年からはそれをどう現実にいかしていくかが問われる。例えばダンピング問題にしても、歩切りの撲滅、最低制限価格や調査基準価格を設定していない自治体の解消などに向かって、一歩でも二歩でも進めていく必要がある。今後は個別具体の自治体毎に対応していくことが必要だろう。法の理念、趣旨を市町村、現場まで浸透させることは難しい課題だが、やらなければいけない。対話で直接伝えるといった取り組みを根気よくやっていく必要がある。
―担い手三法で業界側に求めることは
佐々木 担い手三法は、発注者と受注者双方の責任を明確にしたことに意義がある。各企業が発注者の対応について嘆くだけではなく、自社の成長、発展のために何をすべきかを考え、堂々と外に発信し、人を大切にするとか、どんぶり勘定をやめるとか、当然のことができるよう、意識を変えていく意味もある。また、業界としては、人材の育成、社会への啓発活動など、個々の企業ではできないことに取り組んでいく必要がある。