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基本計画の策定に着手/粒子線利用高度医療施設/来月にも委員会立ち上げ

2005/08/18 日本工業経済新聞(茨城版)

 がん対策の一環として放射線の「粒子線」を活用した県立の高度治療施設の建設を計画している県保健福祉部保健予防課は、整備に向けた基本計画の策定に着手する。昨年度にまとめた「放射線利用高度医療施設整備基本構想」に基づき、有識者や専門家で組織する基本計画策定委員会を早ければ来月にも立ち上げ、検討を進めていく。また、策定作業を委託するシンクタンクをプロポーザルで選定する。基本計画には、施設の建設へ向けて、建設場所や整備方法、施設の基本仕様、運営方法、整備スケジュールなどを盛り込む予定だ。基本計画は今年度内に策定し、来年度以降、財政状況などを勘案しながら整備を具体化していく方針。

 放射線を利用してがん治療を行う方法は数種類あるが、そのうち粒子線治療は、通常の放射線治療と比べて正常な細胞への影響を少なくしてがん細胞を攻撃できる治療法として注目されている。

 また、本県は日本で初めて原子力の火が灯った地域であるため、県では、原子力の有効利用と県民への最先端医療の提供を目指し、高度治療施設の整備を構想。平成10年度から検討を開始した。

 昨年度には、専門家で組織する基本構想策定委員会(委員長=辻井博彦・放射線医学総合研究所重粒子医科学センター長)が報告書をまとめ、それを基に、県が整備基本構想を策定した。

 基本構想では、整備を目指す粒子線治療施設として「陽子線」を利用するものと「重イオン線」を利用するものを提示。

 導入する機器については、まず、高エネルギー加速器研究機構(KEK)が研究を進めている新型FFAG加速器(固定磁場強収束加速器)を利用した陽子線治療施設の整備を検討することにした。

 そのため県では、KEKに対して医療用としての可能性調査を委託。

 KEKが研究しているFFAG加速器を利用すると、陽子線ばかりではなく、より治療効果が高いといわれる重イオン線の両方の治療を行える施設の整備が可能といわれており、今年度内には可能性が判別する見通し。

 その他、基本構想では、整備の基本方針として「整備費が安価で操作性に優れ、治療費の軽減を図れて、今後の粒子線治療の普及型モデルとなる装置や施設を目標とする」ことを挙げている。

 また、施設の要件として<1>外来での治療を行えるため交通の利便性を良いところが望ましい<2>粒子線以外の総合的な診療機能の確保<3>民間と連携した安価な宿泊施設の確保-などを挙げているが、このような総合病院を県が新たに整備することは財政負担などの面から慎重でなければならない、と強調。

 さらに、県内には4箇所の地域がんセンターが整備されており、これら4施設との連携面の必要性も指摘した。

 施設の形態については、財政状況などから判断して、当面は総合病院機能をもたない「粒子線単独型」の建設を目指すが、総合病院機能の確保も引き続き検討していく。

 建設場所については「放射線の有用性を県民が理解できるようにする施設とするならば、臨界事故が発生した原子力関連施設の立地地域への設置が前提」と指摘している。

 県では、KEKへの委託と平行して、今年度は施設の具体化へ向けた整備基本計画を策定する。

 基本計画では、治療施設について、整備場所、整備方法、年間の治療患者数、医療スタッフ数、治療装置、施設の基本仕様、運営方法、運営費、さらには治療施設で医療が始まるまでの整備スケジュールも盛り込む。

 基本計画の検討にあたっては、有識者や専門家による基本計画策定委員会を立ち上げる。現在は人選を進めており、早ければ来月にも委員会を発足させ、検討に着手する。

 また、策定作業を委託するシンクタンクをプロポーザルで選定する。基本構想の策定段階では、同様の作業を(株)三菱総合研究所に委託している。

 基本計画は今年度内にもまとめる予定で、来年度以降、財政状況などを見ながら建設へ向けて具体化を図っていく。

 我が国の粒子線治療施設は、全国でこれまでに6施設が整備されている。

 県内では、筑波大学が陽子線医学利用研究センターを大学付属病院に併設する形で設置。

 近隣地域では、千葉県に放射線医学総合研究所(千葉市、専門病院に併設)や国立がんセンター東病院(柏市、がんセンターに併設)がある。

 県立施設では、福井県が若狭湾エネルギー研究センター(単独型)を設置。静岡県では静岡がんセンターに併設する形で運営している。



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