建設業労働災害防止協会千葉県支部かずさ分会(松本信夫分会長、会員236社)は9日、木更津市内のかずさ建設会館において「2022年度全国労働衛生週間実施要領説明会」を開き、会員企業から25人が出席した。木更津労働基準監督署の松井祐介署長からのあいさつをはじめ、嶋林武彦・安全衛生課長と相塲省一・産業安全専門官が全国労働衛生週間実施要領等を説明。特別講演として、社会保険労務士で(独)労働者健康安全機構千葉産業保健総合支援センターの木村政美・メンタルヘルス対策促進員を講師に招き、「コロナとメンタルヘルス」をテーマに話を聴いた。
10月1日からの本週間へ
全国労働衛生週間は、心身とも健康で、誰もが安心して働ける快適な職場づくりを目指し、効果的な労働衛生管理活動の実施を目指して1950年に開始。今年で73回目を数える。
本年度のスローガンは『あなたの健康があってこそ 笑顔があふれる健康職場』。9月1日から30日までを準備期間とし、10月1日から7日までを本週間として展開する。
説明会に先立ち、主催者を代表してかずさ分会の松本分会長は、労働衛生週間について「重篤な災害を起こさないためにも、労働環境や社員の日頃の健康管理を含めて、万全なかたちで対応するための一環として捉えている」と言明。
一方で、鉄材や木材をはじめとする原材料の高騰に対しては「非常に厳しい時代を迎えている」とし「いざという時に備え、重篤な事態にならぬよう日頃から社員や専門業者に協力をお願いするとともに、労働衛生の面でも継続して頑張っていこうというもの」と説明。
さらに「それぞれの企業の存続と、専門業者として携わる企業の持続可能で永続的な発展を期することでもある」と強調。この日の説明会の内容を会社に持ち帰り「有意義なものとして活用して頂きたい」と呼びかけ、あいさつとした。
敵を知ることで対策取りやすく
木更津労基署の松井署長は、新型コロナウイルスの感染状況について「第7波が治まりつつあるが、これから人流が多くなることなどにより、次の感染拡大が危惧される」とし「今後も暫くは、こういった状況が継続すると思われる」との見通しを示した。
コロナ感染防止対策については「感染拡大初期に比べて、私たちも敵を知ることができるようになり、その対策も取りやすくなっている」と強調。職場においては、感染防止のための取り組みのポイントや、チェックリストなどを活用した感染拡大防止対策の実施を「各現場と各事業所で徹底して頂きたい」と呼びかけた。
「コロナとメンタルヘルス」講演も
木村・メンタルヘルス対策促進員による「コロナとメンタルヘルス」の特別講演は、職場のメンタルヘルス対策の必要性と、新型コロナ感染とメンタルヘルス対策で構成した。
毎年10月1日から7日まで実施される全国労働衛生週間は、昭和25年の第1回実施以来、今年で第73回目を迎えます。この間、全国労働衛生週間は、国民の労働衛生に関する意識を高揚させ、事業場における自主的労働衛生管理活動を通じた労働者の健康確保に大きな役割を果たしてきたところです。
そして、今年の衛生週間は「あなたの健康があってこそ 笑顔があふれる健康職場」というスローガンのもと、展開していくことになっております。
これを機に自分自身、そしてすべての従業員に加え、自らのご家族及び従業員のご家族を含めたみんなの笑顔を絶やさないためにも、より一層の健康確保に努めていただきたいと思います。
それでは、労働者の健康をめぐる状況などについて、3つほど説明をさせていただきます。
1つ目は一般健康診断での有所見率
はじめに「一般健康診断における有所見率について」であります。
労働安全衛生法に基づく一般健康診断における有所見率は、全国でも5割を超え、令和3年には58・7%となっており、その割合は年々増加をしています。
ちなみに、千葉県内の有所見率は令和3年が56・8%と、全国比で1・9ポイント下回っています。さらに、木更津労働基準監督署管内の有所見率というのは例年低くなっていまして、令和3年は52・0%となっており、全国より6・7ポイント、県内平均よりも4・8ポイント低くなっています。
そこで、当署管内で低い有所見率を保っている要因について調べることにしました。
はじめに、管内の労働者の年齢構成がどうなっているのか、つまり、若年層の労働者が多いことが低い有所見率の要因となっているのではないかと考えましたが、当署管内のうち、木更津市や袖ケ浦市では若い労働者の割合が比較的多いことがあるほかは、特に大きな影響を及ぼすと考えられるデータはありませんでした。
安全と健康を優先/トップの強い意識
一方、具体的なことはご紹介できませんが、管内で多くの労働者を抱えている事業所において、有所見率が全国平均や千葉県の平均を大きく下回っているケースが数多く見受けられ、それらの結果として、管内全体の有所見率を低く抑えられている状況にあることが分かってきました。
従いまして、安全と健康を優先させるトップの強い意識のもとで、安全で安心できる職場づくりを各企業が本気になって進めていくことの積み重ねにより、無災害のみならず、低い有所見率という結果も得られることにつながることになると思います。
各事業所においても、この衛生週間を契機として、健康管理の総点検などを行っていただきたいと思います。
2つ目は過重労働/パワハラについて
次に2つ目は「過重労働やパワハラについて」であります。
全国的には、過重労働やパワハラ等によって労働者の尊い命や健康が損なわれることが繰り返され、時には深刻な社会問題となっております。
全国の過労死等の労災補償状況によりますと、昨年度は、過重労働やパワハラを要因とした労災の支給決定を行った事案は437件となり、令和2年度から14件の増加となりました。
その内訳は、過重労働による脳・心臓疾患が172件、過重労働を含む「仕事の量・質」が原因となった精神障害が140件、パワハラによる精神障害が125件となっています。
すべての脳・心臓疾患、精神障害の労災認定事案は、昨年度で801件となっていますが、その半数以上が、過重労働やパワハラに起因するものとなっており、長時間労働の是正とともに、パワハラの防止にも留意する必要があります。
当署管内においても、詳細について説明することは差し控えますが、過重労働による過労死等の労災の支給決定事案というものが、全くないわけではありません。
つきましては、当署においても、過重労働対策、ストレスチェックの実施をはじめとしたメンタルヘルス対策、さらには、パワハラ防止対策も推進しているところです。
過重労働対策としましては、当署においても「長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害防止対策」については、長きにわたって取り組んでいるところであります。
ある民間企業における調査の結果では、昨年の残業時間がここ9年間の全業種計で、月46時間から24時間へと約半減したとのことであります。
そして、特に建設業においては最も減少時間数が多かったという結果になっており、月当たり37・6時間も減少しています。全業種を通じて、そして、特に建設業における長時間労働というものは、着実に減少していると考えられます。
しかしながら、依然として一部の事業所または一部の労働者においては、月45時間を超える、または80時間を超える時間外労働が行われていることが散見されます。
各種情報から、時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場などに対しまして、長時間労働の抑制やメンタルヘルス対策の徹底を目的とした監督指導を、引き続き実施しています。
パワハラに関しては、令和2年6月から施行された労働施策総合推進法により、はじめに大企業に対して職場におけるハラスメント防止対策の強化の一環として、パワーハラスメントに関しても防止措置が事業主の義務となりました。
3つの要素すべて満たすとパワハラ
そして、中小企業に対しては今年の4月から、それまでは努力義務とされていたものが義務化されました。
改正労働施策総合推進法には、どのような行為がパワハラに該当するのかについて示されています。
その行為とは、①優越的な関係を背景とした言動②業務上必要かつ相当な範囲を超える言動③労働者の就業環境が害される――の3つの要素すべてを満たしたものがパワハラに該当するものとされました。
そして、この3つの要素というのは、具体的にどのようなことを言うのか、また、どのような行為であればパワハラに該当しないのかといったことなどについては「パワハラ防止指針」で明確に定めらました。
「パワハラ防止指針」とは、正式には「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」という名称のものです。
優越的な関係を背景とした言動
パワハラに該当するという3つの要素について少し紹介いたしますと、①の「優越的な関係を背景とした」言動とは、言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶できない可能性が高い関係を背景として行われる言動であって、最も分かりやすい例としては「職務上の地位が上位の者による言動」です。この他、同僚や部下による言動であっても、この言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、この者の協力を得られなければ業務を円滑に行うことが困難となるもの、同僚や部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるものもこれに該当します。
業務上必要かつ相当範囲超える
②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、その言動が明らかにその事業主の業務上の必要性がない、またはその態様が相当でないものを指します。
例えば「業務上明らかに必要性のない言動」「業務の目的を大きく逸脱した言動」「業務を遂行するための手段として不適切な言動」「行為に至った回数や行為する者の数など、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動」といったものが該当します。
労働者の就業環境を害する
③の「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの当該労働者が就業する上で、看過できない程度の支障が生じることを指します。
この判断に当たっては「平均的な労働者の感じ方」、すなわち「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当とされています。
一方「パワハラ防止指針」では、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラに該当しないことについても明確に示されています。
そして、職場におけるパワーハラスメントの防止のために、事業主が雇用管理上、講じなければならない措置として、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応――といったことが定められています。
加えまして、これは当然のことではありますが「事業主に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止」という事項も盛り込まれ、事業主は、労働者が職場におけるパワーハラスメントについての相談を行ったことや、雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇、その他、不利益な取り扱いをすることはできないことになっています。
どうか、これらのことを参考に仕事をしていく中で、関わるすべての人たちをお互いに尊重し、みんなでパワハラのない職場づくりをしていきましょう。
さて、パワハラに関しまして、諸外国の状況はどうなっているかと申しますと、パワハラの国際比較という調査が平成27年に行われております。
過去5年間に、職場の上司や同僚から「いじめや身体的・精神的な攻撃といったハラスメントを受けたことがある」と回答した人の割合が日本では25・3%で、調査対象となった37か国中、上から4位となっています。
ちなみに1位はインドの32・3%であり、オーストラリア、ニュージーランドがそれに続いています。日本は、アメリカやイギリスの1・5倍、スイスやスウェーデンの2倍のハラスメント被害を受けていることになっています。
次に、パワハラによる国内の経済損失はどのようになっているのかと申しますと、令和2年の調査によりますと、パワハラによるストレスの1人あたりの平均年間損失額は約17万円。
パワハラが平均的に発生している企業であれば、従業員1000人の企業で約4000万円、パワハラに起因するストレスによる経済的損失が起こっているということになります。
なお、総務省統計局のデータによれば、日本の令和元年度の正規の職員・従業員数は約3500万人であり、細かい計算方法の説明は省略しますが、この人数から日本におけるパワハラによるストレスの経済的損失を試算すると、正規職員・従業員だけでも約1兆4000億円という試算になるようであります。
このようなことから、労働生産性を向上させる観点からも、パワハラのない職場づくりを構築していくことが重要となります。
繰り返しになりますが、事業所としても必要な対策を確実に実施するとともに、仕事に関わるすべての人たちをお互いに尊重していくことで、みんなでパワハラのない職場づくりをしていきましょう。
3つ目は「労働災害発生状況」
最後に3つ目は「労働災害の発生状況について」です。当署管内の休業4日以上の死傷災害については、令和3年までの間、5年連続で増加しています。令和3年の死傷災害586件となっており、前年より45件増加しました。
令和3年の増加は、新型コロナウイルス感染症による労働災害の発生が大きく影響していますが、それを除いても、労働力人口の高齢化も相まって死傷災害については増加傾向にあり、特に転倒や腰痛によるものが多発しています。
そのようなことから、特に労災発生率の高い高年齢労働者に着目して、高年齢労働者の身体機能及び筋力の維持増進による災害予防が求められるところであります。
そのため「エイジフレンドリーガイドライン」(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)に基づく措置を講じることにより、転倒や腰痛などによる労働災害に遭わないよう、また、高年齢者が安心して安全に働ける職場環境の実現に向けた取り組みを進めていただきたいと思います。
最後になりますが、どうか全国労働衛生週間を契機に、仕事の関わる人すべての方々の労働衛生に関する意識の維持・向上が図られるようになり、皆様の職場が「笑顔があふれる健康職場」となることを強く祈念申し上げます。
「全国労働衛生週間」/実施要領説明会出席者
▽石村裕治(石村建設㈱)▽青木朗恭(㈱青木建材工業)▽伊藤健一(㈱伊藤土建)▽奥村保彦(㈲奥村工業)▽川名史泰(㈱川名工務店)▽松本信夫(㈱キミツ鐵構建設)▽保坂和宏(㈱君津特殊)▽竹内悦朗(㈱桑田工務店)▽芝﨑 努(㈱現代建設)▽伊藤恵一(興和建設㈱)▽齊藤美恵子(斉藤建設㈲)▽佐々木勝之(㈱佐々木工務店)▽佐生高利(㈱佐生)▽山名洋一(㈱新昭和)▽木村通良(新葉産建㈱)▽渡邉昌人(綜和熱学工業㈱)▽齋藤康夫(㈱東日産業)▽中山由美子(㈱中山工務店)▽斉藤(㈱ハマダ)▽角南正昭(富津転業土木造園協同組合)▽梶尾憲一郎(ホーナン建設工業㈱)▽鈴木 誠(㈱マスヤ)▽浅井貞始(㈲丸和建材社)▽秋田博文(㈱八千代商事)▽小形 満(ヤマダ建設㈱)