国土交通省北陸地方整備局が新潟市美咲町で平成14年度から整備を進めてきた「新潟美咲町合同庁舎1号館」が完成し、来年1月4日より業務を開始することになった。新庁舎は、巨大モニターを備え関係者が一堂に会することができる災害対策室を備えるほか、液状化対策や免震構造の採用等の耐震対策を施した『強い庁舎』を目標に建設された。また、屋上には地上82mの防災無線用の鉄塔が立ち、北陸地域の安全を守るシンボルであるとともに、水の都の官庁街として地域のランドマークになる。
新潟美咲合同庁舎は、昭和61年3月に東洋ガス化学工場跡地の利用を関係機関で検討する中、「新潟一団地官公庁施設計画」として立案された。平成7年度からの用地取得を経て、13年度から1号館の設計に着手、14年度から工事に着手した。
建設地は新潟県庁や公共公益施設が多く集まる新光町業務地区に隣接し、新潟市における新たな広域的行政拠点・防災拠点となる。また、建設地は「水の都・新潟」の象徴である信濃川にも面する。
計画では、市内に散在し、老朽狭隘化が進んだ28の官署と1機関を集約合同化することで、行政の拠点性を高め、多様なニーズや利用者へのサービス向上を図る。全体計画は1号館から5号館までの5棟を予定しているが、2号棟以降の整備計画は未定だ。
各棟は北陸の厳しい冬の気候に対処するため、南北方向に形成される直線状の主通路で連結する計画。「エコ・コリドール」と名付けた主通路は、いわば現代の雁木で、合同庁舎共有のエントランスホールとして一体性のある建築群を形成する。
設計のポイント
1号館は、国土交通省北陸地方整備局と法務省新潟地方法務局バックアップセンターが入居する。
建物は「災害対策基本法」に基づく指定地方行政機関である北陸地方整備局が入居し、大規模災害時に重要な防災拠点となるため、災害対策活動の維持・継続に配慮し、免震構造や自立性の高い防災設備を採用、地域の安心と安全を守る『強い庁舎』を目標としている。
環境負荷低減への取り組みでは、太陽光発電や雨水再利用の採用など省エネルギー・省資源化を図ると共に、雨水の地中還元に寄与する透水性舗装の採用や、都市にうるおいを与えるだけでなく、ヒートアイランド化抑制にも配慮した駐車場内の緑化等、地球環境にも配慮した整備を行っている。
また、ユニバーサルデザインの考えを取り入れ、使いやすさに配慮した誘導設備や多機能トイレ等を設置した。
事務室は、将来の変化に対応し自由なオフィスレイアウトのできる無柱のオフィス空間を確保するとともに、中央の吹き抜けの光庭を活用した自然採光・自然換気などによるオフィス環境の向上に配慮している。
その他、地域の街並み形成に大きく寄与する合同庁舎群の第一期として、新潟特有の冬の気候に配慮し、外壁は暖かみのある色のタイル張りで、親しみやすい外観とした。
防災拠点の機能
新庁舎は、新たな防災拠点として、ライフラインの途絶するような大規模災害時にも災害復旧活動の指揮が可能となる。
◎整備の考え方
災害関係情報の収集、整理、及び応急復旧の検討、指示を一元化して行うことを目的に災害対策諸室を設置。
指定地方行政機関の役割を担うことから防災拠点として、<1>関係機関と連携した広域支援等を行うための会議施設<2>マスコミ等へ災害情報を提供する施設<3>ヘリコプター等を迅速に活用する施設<4>災害業務の長期化等に備えた施設―を整備。
◎主な施設
▽災害対策室※上写真=各部署の防災担当者(約150名)を一堂に集め、災害情報や応急対応実施の方針を共有しながら防災業務を実施するため、<1>基礎情報(気象、海象、河川、道路情報等)<2>被害予測情報(水位予測システム等)<3>被害実態情報(ヘリテレ映像、CCTVカメラ映像、テレビ報道等)<4>活動拠点情報(車両統合管理システム、テレビ会議システム等)―の情報が総括的に収集可能。中央のモニターは50インチの大型モニターを8面、37インチを8面、30インチを12面配置し、マルチ画面化が可能。周辺にも37インチモニターを17面配置した。また、本部長以下幹部が大型モニター下の中央テーブルに陣取り、周囲を担当者が囲むスタイルを取り入れており、整備局としては北陸が初の試みとなる。
▽災害情報解説室=整備局の災害対応等について映像を活用した記者発表が可能(平時は入札室) ※左写真は移動式の70インチ大型モニター
▽臨時ヘリポート=信濃川水門右岸に新設
◎防災用設備
▽自家発電設備=災害対策関係室、通信機器等へ3日間電力供給
▽飲料用水槽=非常時の飲料水を確保
▽緊急汚水槽=非常時の排水機能(貯留)確保
◎その他
▽情報通信回線の複線化=各種情報を確実に伝達するため、多重無線及び光ファイバー、NTT電話等複数の通信手段をそれぞれ複数ルート確保
▽防災船着場=陸上交通路の遮断等が発生した場合、県庁裏に設置された防災船着場を活用
万全の耐震対策
新庁舎は各種耐震対策を施している。まず液状化対策では、<1>ケーシングパイプを所定位置に据え、一定量の砂を投入<3>パイプを回転させながら地中の所定深度まで貫入<4>パイプを規定の高さに引き上げながらパイプ内の砂を排出<5>パイプを打戻し、排出した砂と周囲の地盤を締固める―ことを細かく繰り返して拡径するウェーブ施工により、SAVEコンポーザーを造成。また、回転圧入鋼管杭(羽径2400mm)を建物の支地中にねじ込んで、建物を支えている。
免震構造については、3種類の免震装置を設置し、万全の対策をとっている。
[ダンバー]
振動を収束させるために免震層上下をつなぐダンバーを12本設置
[柱下すべり支承]
柱下に復元力を持たないすべり支承を6基設け、固有周期を長くする
[柱下積層ゴム支承]
建物の固有周期を長く(4秒)し、地震波との共振を防ぐため22基設置