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ベトナムの建設リサイクルに埼玉大学の川本教授が活躍

2023/07/14 埼玉建設新聞

 埼玉大学は、埼玉県環境科学国際センター、国立研究開発法人国立環境研究所と共同で現地の大学や関係省庁・自治体と連携し、ベトナムにおける建設廃棄物(建廃)の適正管理・リサイクル推進、さらにリサイクル資材の活用へ向けたガイドラインや技術規格をまとめた。今回のベトナム建設リサイクル推進プロジェクトは、埼玉大学が研究代表機関であり、同学大学院理工学研究科教授の川本健氏が代表を務めている。川本教授はベトナムでプロジェクトを進める一方、相手国政府高官や関係者らと埼玉県内の建設リサイクル企業を視察し、技術者らとの意見交換を通して、県内建設リサイクル企業の技術力の高さを、ベトナム関係者や政府高官らに伝えた。ベトナムでは建廃リサイクル事業の定着に向け、建廃適正管理やリサイクル技術を担う事業者・技術者の人材育成が欠かせないことから、建設リサイクル技術レベルの高い日本企業の進出を求める声も大きい。埼玉県はベトナムに海外ビジネスを後押しするサポートデスクを設置しており、川本教授は「埼玉県の企業にも、県のサポートデスクを活用しながらぜひ新規参入を検討してほしい」と呼びかけている。


 このプロジェクトは、埼玉大学とベトナムのハノイ国立建設大学が代表機関となり、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)が共同で実施している地球規模課題対応国際科学技術協力プロジェクト(SATREPS)の支援で、おおよそ6年間かけて行われている。昨年10月に現場建築解体分別ガイドライン(ベトナム建設省決定)が、今年5月には道路用再生路盤材規格(ベトナム国家技術基準TCVN)が正式に発令された。川本教授は「今回はベトナムだが、経済成長や人口増加が著しいアジアでは急速な都市化が進み、これにともない建築解体工事で発生する建廃発生量が急増している。しかし一方、多くの都市では建設リサイクルが普及しておらず、高度な技術やノウハウを有する建築解体業者やその後のリサイクルを担う中間処理企業も少なく、リサイクル資材の建設現場での活用も一般的ではない。今後、限りある天然建設資材の利用を減らすためにも、アジア都市域において建設リサイクル推進が非常に重要になってくる。ベトナム主要都市における建築解体実態をこれまで調査してきたところ、リサイクルのためにはまず現場で適切に分別することが何より重要であることが認識された。そのため、初めに建築解体現場でどのように建廃を分別するかというガイドライン作成に着手した。道路用路盤材規格については、ベトナムには国家技術基準がなく、再生材(リサイクル資材)が道路建設にもほとんど利用されていないことが明らかになった。現状、ベトナムにおける道路舗装率は約三割程度にとどまり、道路建設需要は高い。路盤材としてリサイクル資材の有効利用が進めばベトナム全土において建設リサイクル率向上が期待できる」と見通す。

 経済成長が急速に進むベトナムでは、同国政府が2030年までに建廃リサイクル率60%、50年には90%を国家戦略として掲げている。川本教授は「今後1年間はベトナムの代表的な自治体として、観光産業が盛んで建築解体が急増しているクワンニン省において建設リサイクル推進に向けた行動計画を作り、グッドプラクティスとしたい」との考えだ。 

 さらに、川本教授は「これから必要となってくるのは、民間企業の建設リサイクルへの参入であり、特に、ベトナムと良好な関係を背景に、建設リサイクル技術レベルの高い日本企業の参入が重要な鍵を握る」と強調する。これまでも国内の複数企業からの問い合わせもあるが、「世界に誇れる日本の静脈産業の中で、埼玉県内の企業が良いリーダーシップを取れるようになれば」と指摘。

 埼玉県は歴史的にも地理的にも、建設リサイクル企業が多く、早い段階から取り組んでいる事業者も多い。一例をあげれば、川本教授が技術顧問を務める一般社団法人全国建設発生土リサイクル協会(JASRA)にも、NPO法人埼玉県建設発生土リサイクル協会から多くの会員が参加している。川本教授は「建設リサイクルは、埼玉の強みでもある」と評価する。

 「ベトナムと埼玉県、埼玉大学も強固なネットワークが整っている」という。その一つが、埼玉県とベトナムが相互に設置している「ビジネスサポートデスク」だ。川本教授は「ベトナムにとって、埼玉県は日本でも特別な関係にある自治体。県レベルでビジネスサポートデスクをベトナムに有しているのは、全国でも10県にも満たないと聞いている。そのような下地ができており、ベトナムにおける建設リサイクル推進に直接的かつ実効性の高い支援が埼玉県は可能と考えている」と期待を寄せた。

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