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暑中号/県・戸田市が「合冊入札」を運用/新たな不調不落対策への活路

2023/07/31 埼玉建設新聞

 公共工事を計画的に執行していく上で、発注者がたびたび頭を悩ませる問題の一つが、入札の不調・不落。地域づくりに必要な予算・財源をどれだけ確保しても個別の工事の落札者が決まらなければ、事業は進まない。企業側の応札意欲を高めるさまざま工夫を発注者が凝らす中、新たな不調不落対策の一手として、県などが「合冊入札」を導入した。


 合冊入札は、2件の工事契約を一本化する特殊な入札。通常なら個別に契約締結するはずの工事が、過去の受注状況から不調不落の恐れがあると判断した場合などに、別工事と一括発注することで、不調不落の抑止につなげる制度だ。工事ごとに契約を結んだ上で、2工事を同じ業者が施工する形となる。

 県内では戸田市が、部局をまたぐ工事を効率的に施工するために合冊入札を運用している。

 市は2017年3月、合冊入札の実施要領に関する市長決裁を行った。2工事の関連性が高く、契約を一体化することに合理的な理由がある場合に適用される。年に数回程度、必要に応じて合冊入札を適用した工事発注を実施している。

 同市で実際に合冊入札を行った直近の事例としては、5月に発注した「新曽第一地区区画街路9-35号線外1路線築造工事及び令和4年度配水管布設№2工事」がある。「区画街路築造工事」の設計額665万600円、「配水管布設工事」の設計額324万5000円を合算し、設計額989万5600円の工事として発注した。

 通常なら同工事は「街路築造工事」を市長部局、「配水管布設工事」を上下水道部が個別に発注する形で対応していた。合冊入札を適用することで、手続き上は市長部局・上下水道部それぞれと契約を結ぶことになるが、実質的に2件の工事を同じ企業が施工できる。

 工事を一括するメリットは何か。

 例えば、2件の工事を別々の事業者が受注していた場合、施工時に業者間の折衝業務が発生することになる。両工事間の調整に起因する瑕疵(かし)が、いずれかの工事に発生した場合、業者間の責任の在り方が問題になる恐れもある。受注者が同じであれば、こうした問題は避けられる。

 工事を一括して契約手続きを執行することにより、工期短縮や工事費の削減といった効果を得られる可能性もある。

 戸田市の運用では、合冊入札を適用した入札参加条件は、通常の入札と大きく変わらない。基本的に、同じ工種同士の工事を合冊する形となるからだ。設計額は、単純に2件の工事の設計額を合算した額となる。

 市の担当者は、合冊入札を適用すれば円滑な施工が担えるとし、「業者側にもデメリットはない制度だ」との見解を示している。


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 県もまた、合冊入札を試行的に適用することで工事を効率的に進める道を模索している。

 県が本年度から取り組む合冊入札では、より複雑な状況にも柔軟に対応できるよう制度を運用する。具体的には、戸田市が同じ工種での合冊入札を基本としている一方、県では合冊入札の対象工種は問わない考え。例えば、河川改修工事・舗装工事を同時に執行することも要領上可能にしている。

 県の運用では、2工事の着工時期を受発注者双方で調整を行えるほか、工期の終わりについても工事ごとに受発注者の協議を経て設定できる。業者が持つ幅広い対応能力を生かすことにもつながる。

 県と戸田市の合冊入札には、ほかにも導入対象となる設計額にも違いがある。戸田市は必要とみれば設計額に関わらず合冊入札を適用するが、県は設計金額を1工事あたり2億円(合計4億円)未満とするなどの条件を設定している。

 県は今後、発注担当が不調不落対策として有効だと判断した案件に対して、柔軟に合冊入札を導入していく考え。


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 戸田市は基本的に、部局をまたがる工事発注を一本化するために合冊入札を運用している。県側の合冊入札は多様な施工条件に対応できるものであり、上手に使いこなせれば受発注者双方のメリットとなる。合冊入札の浸透が、不調不落が懸念される工事の執行にどのような影響を与えるか。県の場合、戸田市より広い範囲を対象とすることから、今後の動向が注目されていきそうだ。

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