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日本緑化工学会が新潟大会開く/新潟例に維持管理策探る/海岸林のグリーンインフラ

2023/09/27 新潟建設新聞

 第54回日本緑化工学会の新潟大会が20日から3日間の日程で行われた。県内では初めての開催となり、21日には新潟市中央区の朱鷺メッセで「新潟の海岸から学ぶグリーンインフラ」をテーマに公開シンポジウムを実施した。日本の代表的なグリーンインフラの例である砂丘地で生育するクロマツの海岸林について、飛砂が激しい新潟でどのような経過をたどり今に至っているかを紹介しながら、今後の維持管理に向けて関係者が意見を交換した。

 最初に新潟大学名誉教授の紙谷智彦氏が「人と自然が作り出した新潟砂丘の海岸林」と題した基調講演を行い、冬の飛砂に苦しめられてきた人々が継続的に植栽を行ってきた結果、海浜に沿った海岸保安林が充実し、住居地域への飛砂が抑えられるようになり、多様な広葉樹による新たな海岸林が形成されつつある状況を紹介。人と自然の相互作用が作り出した「砂丘林」の姿を取り上げ「新潟砂丘の海岸林は、人が創出したクロマツ林に自然林植物と緑化植物が移住し、遷移していく新たな森林生態系。今後も生態学的な手法でさまざまな課題に対応しながら、継続的に管理していくことが必要」と強調した。

 話題提供では、県農林水産部治山課の城向勇男氏が「広葉樹も活かす新潟海岸保安林の林相別管理指針」として、近年の海岸林の生育実態を踏まえ、保安林を良好な状態で維持するために汀線からの距離によって3タイプの海岸林を想定したクロマツ林や多様な広葉樹による混交林の整備を進めてきたことを解説。「新潟県の海岸林は市街地や農地等に近接し、県民の生活に欠かすことのできない重要な保安林。県や市町村が行う治山事業や松くい虫防除事業のほか、ボランティアの協力もいただきながら海岸林を維持している」としながら、今後は「関係者と将来イメージを共有し、50年、100年後の緑豊かな海岸林を目指し引き続き取り組みたい」との方針を伝えた。

 柏崎市都市整備部都市計画課の高橋深雪氏は「『砂丘のまち柏崎』の飛砂をいなす暮らしの知恵と都市計画」をテーマとし、日本海に面して約20㎞にわたり海沿いに堆積した荒浜砂丘の上に中心市街地がある柏崎の歴史を説明。積雪と合わせて深刻な問題となっていた飛砂を克服する暮らしの知恵が特徴的な工作物を生み出したほか、近代の都市計画にも影響を与え、現代にも引き継がれているなど、砂とともに生きる柏崎の姿を紹介した。

 グリーン産業(新潟市中央区)の今富有紀氏は「海岸飛砂地における在来植物を活用した新たな緑化の取り組み」と題して、県内の砂浜海岸で進む、有機質資材を埋設して地域に生育する在来植物を繁茂させる飛砂防止緑化工法(はまみどり)によって、マツ林や生活圏への飛砂防止、人工砂丘の浸食を防ぐ取り組みなどが行われていることを説明。今後の課題としては、より効率的な在来種の活用方法の研究や、飛砂対策としての海浜緑地から在来種の保護や公園的な利用が可能な緑地としての管理方法の研究が必要との考えを示した。

 引き続き、東京都市大学名誉教授の吉﨑真司氏が進行役を務め、紙谷氏と千葉大学教授の小林達明氏がパネラーとなって総合討論を行った。クロマツ海岸林への広葉樹の侵入という変化が伴うグリーンインフラを、どのように維持管理していくのかを議題に、研究者や行政の課題、市民の関わり方を含め参加者を交えて議論した。吉﨑氏は学会員に対して「海岸林や沿岸域のインフラは非常に重要。いろいろと興味を持ち、われわれが思っている課題に取り組んでいただければありがたい」と述べた。

 今回の大会では、資材・工法展示、ポスター展示、研究集会が行われたほか、柏崎市松波と新潟市青山海岸を視察する現地見学会も実施した。


【写真=紙谷氏、城向氏、高橋氏、今富氏。関係者による総合討論も行われた。関係者による総合討論も行われた】

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