石破茂首相と建設4団体(日本建設業連合会、全国建設業協会、全国中小建設業協会、建設産業専門団体連合会)による車座対話が14日に首相官邸で開かれた。車座対話では賃上げや建設業の課題などについて意見交換が行われた。
車座対話に当たり、中野洋昌国交相と建設4団体は公共工事設計労務単価改定などについて申し合わせを行った。意見交換では単価改定による賃上げを現場労働者や民間工事にまで波及させる取り組みや若者・女性が建設業への入職を選ぶための方法について意見交換を行った。
石破首相との車座対話には日建連・宮本洋一会長、全建・今井雅則会長、全中建・河崎茂副会長(土志田領司会長の代理)、建専連・岩田正吾会長が出席。赤澤亮正新しい資本主義担当相、中野国交相も出席し、進行は中野国交相が務めた。
◇賃上げについて
石破首相は「公共工事設計労務単価改定は過去11年間で最も高い6・0%増、2万4852円ということになる。これが現場の従事者にきちんと支払われ、そして構造的な賃上げになるよう、政府としても努力をする」と述べた。
日建連・宮本会長は「いかに技能労働者に行き渡るようにするかが課題。いまも行っているが、労務費見積り尊重宣言などを出しながら協力業者に対して支払うことを、さらに推進していく。民間工事は価格転嫁が行き渡ってないところがある。建設業法改正を背景にしながら交渉し、国にもバックアップをお願いしたい」と話した。
全建・今井会長は「賃上げをしていくには価格転嫁と生産性向上が大事。そのために入札の方法を変えてほしい。予定価格で発注されても調査価格は92%、自治体によっては80%という場合もある。受注した段階でその金額になる」と問題を提起した。
全中建・河崎副会長は「賃上げをしたくても、発注工事は安ければ良いという発注者も多い。予定価格に近い価格で受注可能な環境整備をしていただきたい。国においても労働環境や賃上げに取り組んでいただき、地方の建設業者が持続可能となることをお願いしたい」と話した。
建専連・岩田会長は「賃上げには民間発注者と国民の理解が必要。家を買う際には安い方が良いという気持ちが根強くある。元請けや発注者も含め、サプライチェーン全体で取り組む必要がある。政府には、賃金を上げて価格を転嫁し、その価格を払えるような賃金に上げていくという社会環境を作っていただき、真面目に賃上げに取り組む企業が倒産しないよう後押しをお願いしたい」と述べた。
◇選ばれる建設業について
石破首相は「あらゆる産業で人手が足りないが、そうした中で喜んで建設業に従事してもらうには何が必要か。働き方改革で残業しなくて良い、休みも十分にある、なおかつ収入を確保する。そういうことが大事だと思うが、どうすれば良いのか」と質問を投げかけた。
日建連・宮本会長は「若い人がなかなか入ってこないため悩んでいる。そのためにどう働き方を変えるのかが大きな課題で、対策として省力化を含めた機械化施工を進めている。さまざまなことを組み合わせながら、人力に頼るものを減らす取り組みを行っている」と回答。一方で、課題として「他産業と比べて週休2日がまだ定着しきれてない。処遇も給料も差が少しある。残業も多い。それから昔の3K『きつい、汚い、危険』が残っている」と説明。さらに「新3K『給料がいい、休暇が取れる、希望がある』と『かっこいい』を加えて4Kへ行こうというスローガンを掲げてやっている。実現のためには現場での働き方を残業ありきでない考え方に変えていくことが大切。また外国人材も登用していかなければならない。日本人の中には外国人材を『安いから使う』という考え方があるが、それでは外国人から選ばれなくなる。日本人と同じ処遇をしていく必要がある」と述べた。
全建・今井会長は「希望が持てる生涯収入を得られることが重要であり、そのためには賃金アップが不可欠。また『かっこいい』とか『技術・先端産業』というイメージが重要で、DXやICT化が必要になってくる。それが中小企業にまで取り入れられるシステムを作っていただきたい。働き方改革では、週休2日や閉所運動で時間に対する考え方のベースを作っているが、次の段階は変形労働制を進化させた方式。例えば北海道は冬場に工事できないから休む。その代わりに夏は徹底的に働くこととする。そうした多様な働き方が認められる社会が必要」と答えた。
全中建・河崎副会長は「資機材を持って現場に行く、現場から出て会社に戻るなどに時間がかかる。帰りの時間もある。そうすると実際の作業時間が短くなる。直轄工事と違い、地方自治体の場合は生活道路のため道路規制がある。通勤などの関係で9時からでなければ都市部の道路は対策できない。当然、夕方5時までに対応するため、決められた時間でしか作業ができない。週休2日は当然と思うが、地方自治体に合わせていただきたい」と述べた。
建専連・岩田会長は「女性技能者が出産してから職場復帰する難しさに、現場へ行くまでの長い拘束時間がある。人によっては1時間半、往復3時間かかるが、早朝から子供を預けるところが開いてない。いかに休み、どう対応していくかが若い人や女性から選ばれるポイント。ただ、会社で規定を変えたとしても現場の就業規則に合わせる必要がある。以前は多少の余裕があったが、どんどん削られて無くなってきている。女性に『今日は休んでいいよ』と言う余裕すらない空気になっている。それが若い人や女性に透けて見えるのではないか」と話した。
最後に石破首相は「いろいろな話を聞くことができた。政府としても、現場の動きをみながら全力で取り組んでいく」と述べ、約30分間の車座対話は閉会した。