コラム

2003/02/27

太古の沼を愛した作家(本・SY)

2003.02.27 【太古の沼を愛した作家】

▼米国南部ジョージア州にオケフェノキーという沼がある。沼といっても日本各地で見られる沼とは異なり、琵琶湖の3倍ほどの広さがある。この沼の管理者はモーターボートで見回りをする。鬱蒼とした杉木立の湿地帯を抜けると、パッと視界が開け広大な水面となる。太古の自然がそのまま残されたような世界だ

▼1911年にこの沼の近くの町でひとりの男の子が生まれた。バリーン・ベルは成長するまで何度も沼を訪れ、その自然とそこに生息する鹿やワニなどの動物や昆虫、植物を愛した。20代の終わりに彼はこの地を題材に「沼の水」という作品を書いた。刊行されるや全米でベストセラーとなり、彼は一躍有名になる

▼1941年、太平洋戦争の勃発する年である。彼は志願して米国海軍に入隊する。1944年、米国は日本軍が占領した島々を次々と奪取し、同年10月、ついにフィリピンに進攻する。迎え撃つ日本海軍との間に史上最大の海戦が3日間にわたって繰り広げられる。この海戦で日本の連合艦隊は壊滅的な打撃を受ける。だが、米国の被害も小さくはなかった。護衛空母に乗り組んだ彼はその艦と運命をともにする

▼「神は植物でも昆虫でも人間でも同じ尊さで生命を授けた。かつてこの沼に住んでいたインディアンたちはその道理を深く理解していた」と「沼の水」の主人公に語らせる。もし戦死しなければ、この後どんなにすばらしい作品を残せたことか

▼息子の戦死を知らない母親は戦地に手紙を書く。「家族でいつもあなたのことを心配しています。来年の今頃はきっと皆で暮らせるでしょう」と。戦争は全てを奪い取ってしまう。(本・SY)

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