コラム

2003/04/12

読み物『新明解辞典』(本・MM)

2003.04.12 【読み物としての「新明解」】

▼ときに辞書も読物として楽しい。ひと切りまえに、芥川賞作家の赤瀬川源平さん著作「新明解さんの謎」がベストセラーになったことがあった。「新明解」とは三省堂の『新明解国語辞典』(初版第五刷昭和47年発行)のことである。「この辞書は読んで楽しい」ということを世間に知らしめたものだった

▼例えば「恋愛」。通常はどの辞書も「男女間の恋い慕う感情」とそっけないが、『新明解〜』は「一組の男女が相互に相手にひかれ、ほかの異性をさしおいて最高の存在としてとらえ、毎日会わないではいられなくなること」とまさに明解そのもの。これなら恋愛経験のない人にも理解できる

▼しかし、「新明解さんの謎」の功績は「辞書は引くもの」ではなく「辞書は読むもの」であることを一般にも開放させたことだ。ノーベル賞作家の大江健三郎さんは、専門化とあって「広辞苑」がぼろぼろになるまで日本語を探索したそうだ。それも3冊。それしかないぴったりの言葉を見出すために、作家の井上ひさしさんも辞書の読書家として知られる

▼『新明解国語辞典』は「書物を読むこと」の「読書」についても「研究調査のため興味本位ではなく教養のために書物を読むこと」と解す。しかも「寝転がって読んだり、雑誌や週刊誌を読むことは含まない」と自ら規定までしている

▼最新版(平成9年、第5版)も「実社会」を「美化・様式化されたものとは違って複雑で、虚偽と欺瞞とが充満する、毎日が試練の連続であると言える、きびしい社会を指す」と詳述。昔も今も、実社会は悪魔の棲家と言い当てている。虚虚実実、読んで楽しい限りである。(本・MM)

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