コラム

2003/07/16

庶民の喜び「常備薬」(本・MM)

2003.07.16 【庶民の喜び「常備薬」】

▼出張での唯一の楽しみは、仕事を終え「晩酌セット」にあり付けたひとときである。地元の心温まる持て成しの情感に加え「地酒お楽しみセット」でのほろ酔いは、自分の胃袋が透けるほどにうまい。1杯飲み干すと一気に疲労が顔を出す。2杯目で疲れは癒される

▼江戸時代の儒学者で政治家でもあった新井白石は、数多くのご法度を出したことで著名だが、富くじと一杯飲み屋の2つだけは、禁じなかったという。平和な社会を維持し政治や人間関係をスムーズに行うためには、こうした庶民の喜びを奪い取ってはいけないことを存じ上げていたのであろう

▼反対のことが起こったのは米国であった。1920年に天下の悪法と呼ばれた「禁酒令」が出された。庶民の楽しみをさらわれた結果マフィアが暗躍し、社会秩序が乱れた。お酒を介すことの価値が分からなかったようだ。即時禁酒令は廃止された。酒は人間の生活と切っても切れない常備薬であることを物語っている

▼常備薬といえば政府は規制緩和対策で、一部の薬の販売をコンビニなど一般のお店にも解禁する。「コンビニでの医薬品など呑めるわけがない」と、販売権をもつ薬剤師会側の反論もあろうが、身近に店で買えればすり傷の絶えない子供や、風邪を引き易い人には有りがたいこと

▼酒販店は薬局より以前に規制緩和の大波にさらされ、酒はいち早くコンビニの棚に陳列され販売を競っている。「薬までも」の声も聞こえようが、果たしてどうなることやら。ところで人間にとってどちらも役に立つ飲み物だが、この2つを合わせて呑むと即刻死に至るという。旨く行かないのは浮世と同じ。(本・MM)

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