コラム

2003/12/10

孤島村の「野辺の送り」(本・MM)

2003.12.10 【孤島村の「野辺の送り」】

▼叙情演歌歌手で、青森県出身の吉幾三さんの初期の歌に「俺ら東京さ行くだ」というニッポン・カントリー・コミック・ソングがある。今や「おずぃんつぁん、おばんつぁん」の心の拠りどころとして絶大の人気がある。歌詞は「モノがない不便な田舎を捨て東京に出たい」という筋

▼筆者の田舎は、葬儀に関して特異な慣習が戦前からある。だれか村の者が不帰の客となるや、訃報を受けた班長は夜中であろうと、葬儀に向けた分担会議を召集する。死亡診断書を貰い受ける係、遺体運搬係、連絡伝令するお触れ係、預金通帳引落係などを班の皆の衆が決めていく

▼荼毘に付すための火葬場手続係、役所手続係、お通夜、葬式日程、葬儀屋も決定される。村の協働とされ、個々のプライバシーは無視される。先日、分をわきまえつつ喪主の権限で葬儀屋、通夜、告別式を決定した。同級生の支援でこと無きを得たものの白眼視は免れなかった。が、どうにか無事終了した

▼ところが、こんどは「お悔み欄」に喪主の住所が掲載されたため、告別式の翌日から法事営業のDMが殺到。仏具店、ギフトカタログ、法要案内状、喪中はがき印刷、法事料亭、引き出物案内と驚くほどのチラシの山となった。DMの主は皆一同に「ご逝去の報に接し謹んでお悔み申し上げます」のあと、すべてが「わが社を使用してください」と営業文句の羅列。法事業界も売上げ競争に熾烈を極めているようだ

▼葬儀を自分の権限で執行した負い目は拭い切れないが、また49日、新盆、1周忌が村の音頭取りと思うと「もうこんなのは嫌だ」が言い出せない。新旧混合の時代はまだ続くだろう。(本・MM)

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