コラム

2005/02/02

「稲むらの火」を世界に(本・MM)

2005.02.02 【「稲むらの火」を世界に】

▼「この火を目印に高台に逃げろ」。それは突然、夕刻に起きた。「これは、ただ事ではない」とつぶやきながら、濱口梧陵(はまぐちごりょう)は家から出てきた。長いゆったりとしたゆれ方と、うなるような地鳴りは、今まで経験したことのない不気味なものであった

▼梧陵のとっさの機転で村人を津波から守った話「稲むらの火」の人形劇が、インド洋大津波を踏まえ国連防災世界会議で披露された。小泉首相が開会式の演説で防災のモデルケースとして紹介したことから、世界共通語の「TSUNAMI」同様に「INAMURA」の知名度が急上昇中だ

▼民話「稲むらの火」は今から150年前の1854年、安政の南海地震で津波の予兆に気づいた紀州広村(和歌山県広川町)の醤油造り(現在のヤマサ醤油)を営んでいた濱口梧陵がモデルの実話。小泉八雲が梧陵を主人公にした短編小説で欧米に紹介するとともに、戦前、戦中に亘り国語の教科書にも採用された

▼夜、村を異様な揺れの地震が襲った。直後、急に潮が引くのを見た梧陵が「ただ事ではない」と津波を察知。祭りの準備に没頭する人々に異変を知らせようと、高台にある梧陵の、刈り取ったばかりの積み上げた貴重な稲束「稲むら」に火を付け、村人を引き寄せ、村人を救った

▼広川町では『たいまつ』行列を行う「稲むらの火祭り」が今も伝承されている。隣村の深恵寺には「万が一地震が発生したら、この寺の前を通って天神山の方へ逃げよ」と心得の記碑が見える。日本の先人らは、津波には「避難に勝る近道はない」ことを、また、語り継ぐことの大切さを教え続けている。(本・MM)

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