コラム

2005/09/14

誇りが生む一級品(前・NT)

2005.09.14 【誇りが生む一級品】

▼「皆の喜ぶ顔が見たいから、がんばれるんだよ」。従業員3人の小さな工場で、日々汗を流す友人の父は塗装業を営んでいる。戦争で足を負傷した先代を気遣い、27歳の若さで家業を受け継いだ。仕事は家具や住宅フローリング、ベットヘッドボード塗装など様々

▼従業員10数人を抱えたバブル期と比べ、今の仕事量は半分以下になってしまった。それでも「小さな工場からでも一級品を出し続けているつもり。信頼を寄せてくれるお客さんがいる」と信じ、辞めようと思ったことは一度もない。設計通りに納得いくものを、と常に発していた先代の背中を見て学んだ仕事への拘りが、いつしか誇りへと変わったという

▼一年を通じて最も仕事が少なくなる夏場を前に、昨年大きなチャンスが巡ってきた。下請けだったが、アテネオリンピックのメーンスタジアムなどで使用されたスピーカー枠の木工塗装である。人手不足や工期などの問題もあったが、二つ返事で引き受けた

▼完成品をめぐり元請けと衝突もあったらしいが、経験と誇りを持ってやり遂げた結果が来年2月に開かれるトリノ五輪の仕事へと繋がった。自分たちが手がけた作品を目にしたときの喜びは、ひとしおだったことだろう。友人はその誇りに魅せられ、3代目としての覚悟を決めた

▼自らの仕事に誇りを持ちたいと思うのは共通だ。建設業界は建築物や道路など人々の目に触れ地図に残る仕事とも言われる。しかし近年は公共事業削減、後継者不足といった厳しい環境にある。そうした中でも強い精神力と団結力を持ち、趣旨一貫した誇りを持つことで、何らかの打開策が見出せると信じたい。(前・NT)

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