コラム

2008/07/10

今も昔も変わらないもの(群馬・HM)


▼山本兼一氏が著した『火天の城』という小説を読んだ。織田信長に安土城の築城を命じられた岡部又右衛門とその息子の物語。かつて誰も見たことも聞いたこともない7層の天主に挑む棟梁の苦悩が細かく描かれており、当時の現場を想像する

▼筆者は以前、安土城の跡地を見学に行った。また、復元された有名な八角形の天守も見学した。その時に見た、あまりにも荘厳で絢爛な天主。安土山の頂上、天主の礎石跡から見た琵琶湖の風景が美しく思い出された

▼できれば天主が完成したところで物語を終えてほしかった。築城後わずか数年、信長の死を追うように焼失した安土城の運命は知ってはいるが読むのが悲しかった。「安土城は信長が建てた」と教えられたし、そう思っていた。しかし、実際に木を削り、支口をつくり、梁と柱を組んでいくのは大工、その大工達が己の全てをつぎ込んで建てた城があまりにも短命なのが辛かった

▼当時としては何しろ前代未聞の建造物。規模もそうだが、信長の希望は南蛮風。誰1人として想像すらできない天主。どうデザインすればいいのか、どの材料をどう使えばこれほどの建物がしっかりと建つのか。デザイン性、機能性、強度、全てを備えた建物を工期内に完成させる。施工者の苦悩は今と変わらない

▼その中で、最も印象に残った又右衛門の言葉を紹介したい。「自分が半人前だと思えばこそ、木の力を借り、人の力を借りて屋形も天主も建てられる。一人でできることなど、なにもありはせぬ。仕事に満点はないと諭した言葉。これこそが今も昔も変わらないもの、また変わってはいけないものだろう。(群馬・HM)

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