コラム

2009/09/14

拘ることなく前向きに(松本・HK)


▼「『仕方ないよ。今は事故を起こした人も含めて、みんなが幸せになるように頑張ってほしい』。10年間付き合って自分が知る彼女はきっとこう思っているに違いない」。突然の交通事故で妻を亡くした夫・喪主の印象的な言葉だ

▼事故原因は対向車の居眠り運転だった。同乗していた11カ月になる夫婦にとって何物にも代え難い一子、妻と妻のご両親も災難に遭遇。しかし当初重体だった一子・長男は奇跡的に回復し葬儀までに退院。妻とそのご両親は帰らぬ人となり合同の告別式となった

▼筆者は、亡くなった彼女とは生前に3回ほどお会いしただけだが、その明るさ、心の広さは十分に察することができた。起きてしまったことをいつまでも悔やんでいるより、皆が笑顔になるように明日のことを考えて歩んでいく。「夫婦喧嘩の際も『もう止めよう、笑っていたほうがいいよ』といつも妻が終止符を打った」。夫の一言一言の向こう側に生前の彼女の姿がよぎる

▼昨年12月からは、刑事裁判で被害者・遺族が被告人に直接質問などができる「被害者参加制度」が始まった。「何故?」「どうして?」とその尽きない疑問、やるせない心根を癒す手助けには役立つかも知れないが、犯人に対しての憎しみや怒りへの薬になるのかは筆者には分からない

▼「罪を憎んで人を憎まず」。事故ではなく、利己主義的な犯罪であったなら彼女と夫はどう思い、どう考えたか。人が生きる世界で憎しみは尽きることはない。しかし、前向きに、あくまでも前向きに進もうとする人もいる。参列者のひとりが呟いていた。「この言葉を全世界の人に聴かせてあげたい」と。(松本・HK)

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