コラム

2012/09/28

一本松の奇跡を残す(茨城・HS)

一本松の奇跡を残す

▼東日本大震災の大津波に耐えた岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」。樹齢はおよそ270年。7万本の松原のうち唯一残ったこの奇跡の象徴が、市の復興のシンボルとして保存される。高さ約27mの一本松をいくつかに切断し、防腐処理を施して来年の3月11日までに元の場所に立て直すことになった。

▼あの大津波にも流されず、地元の人々を勇気づけてきた一本松は、すでに枯死の状態で、風雨で倒れる可能性がある。そこで市は一本松の保存を決定。費用は約1億5000万円かかるため、ホームページやフェイスブックで募金の呼び掛けを開始した。

▼この金額を「高すぎる」と批難する声もあるだろう。しかし、被災した各自治体が様々な記念碑を設置する中、こうしたモニュメントを残すことは決して意味のないことではないだろう。特に陸前高田市は甚大な被害を受けこともあり、この「奇跡」に救われた人も多かったのではないだろうか。

▼一方、内閣府の有識者会議は、南海トラフの巨大地震で最大32万人の死者が出るとの見解を公表した。東日本大震災を経験したとはいえ、この恐ろしい数字を現実のものにしないよう、さらに地震に対して備える必要がある。そういった意味でも、どのような形であれ地震の記録を残すことは有意義なことだ。

▼奇跡は途方もない絶望を味わった人間の背中をそっと押してくれる。だが、奇跡はそう簡単に起こるものでもない。だからこそ、奇跡が与えてくれた希望を「やるぞ!」という意志に変え、前を向いて歩き出さなければならない。あの一本松を思い出せば、大抵のことはなんとかなる―と思えてくる。(茨城・HS)

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