コラム

2012/10/17

生きることを学ぶ(群馬・KS)

生きることを学ぶ

▼「起きてください!」看護士の呼びかけに飛び起きた。病室にアラームが鳴り響いている。焦燥感を抑えて「おじいちゃん!頑張って」骨張った肩に手を添えながら呼びかけた。酸素マスクを通して聞こえる細く短い呼吸が祖父の苦しさを伝える。ただ声を掛けることしかできず「おじいちゃん、もう少しでおばあちゃんが来るからね!」その呼びかけが祖父に届いただろうか。

▼病床に伏せて8カ月。長い闘病生活を終え、念願の我が家に帰ったものの、体調がすぐれず再入院してから1週間後のことだった。家に帰りたい一心で度重なる病魔と闘いリハビリに取り組んできた祖父は、やせ細ったことをひどく気にしていた。

▼残暑を残すも季節は秋へと向かい、冬の定番シチューなど心温まるテレビCMが流れてくる。もうそんな時期かと、やたら明るい画面から目を背けると「俺が死ぬときは雪の降る夜がいい」と父のつぶやきが聞こえた。とっさに「死ぬときは、選べないよ」と遠くの祖父を想う。

▼病死、災害、事故など命を落とす場面は人それぞれだが、寿命を全うし生涯を閉じることができれば当人も家族にとっても一番幸せなことだと強く感じている。「かけがえのない人を失うと想像を絶する悲しみが家族を襲う」と労働基準監督署の呼びかけが頭をよぎる。

▼祖父の一途な思いをよそに身体は寿命に正直だった。「生きたい」という思いは、祖父に一時元気を取り戻させたのだが。寿命が尽きるには時間があると思える筆者だが、唐突に訪れる災害や事故に遭わず全うするため、日ごろの健康管理と安全確保に努力すると祖父に誓っている。(群馬・KS)

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