コラム

2012/12/01

地震と吊り橋理論(東京・JI)

地震と吊り橋理論

▼市営プールで泳いだ後にロビーでアイスクリームを食べていると、大きな揺れを感じた。思わず「地震だ」と声を出すと、近くに座っていた女性と視線が合う。自然に「結構大きかったですね」「最初はわからなかったですね」「まだ揺れてますね」などと親しく会話を交わした。

▼非常時は、人と人との結びつきが強くなる。今回であれば、地震という恐怖体験を誰かと共有したくなるのだろう。人と話すことによって安心を得る場合も多い。不安定な吊り橋を渡る男女は互いに恋愛感情を起こしやすいという『吊り橋理論』にも似ている。

▼昨年3月の東日本大震災以降、安全・安心は極めて重要なテーマとなっている。公共事業は防災・減災に大きく傾き、老朽施設の更新や災害未然防止対策、耐震補強、防災拠点整備の必要性が強調されている。今年8月に閣議決定された国土交通省の社会資本整備重点計画では、重点目標の一つとして「災害リスクの低減」が掲げられた。また18のプログラムの一つには「災害に強い国土・地域づくり」が示されている。

▼一方、こうした流れを「便乗」と揶揄する声もある。震災に便乗して新たな公共事業のばら撒きをするなということらしい。安全な国土づくりを進めていくには、こうした人々にも防災・減災の必要性を納得してもらい、かつ多くの市民が安心できるような情報共有も大事だろう。

▼市営プールで親しくなった女性とは、揺れが落ち着いてからは話をしなくなり、これまで通り他人となった。安全・安心な状態が、2人の距離を遠ざけてしまった。どうやら吊り橋の効果はなかったようである。(東京・JI)

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