コラム

2013/03/02

残心の美学について(新潟・HT)

残心の美学について


▼老朽化を理由に、建物が改築されることになった。担当の話では、築後40年近くが経過し、耐震基

準を満たしていないそうだ。日本では今、耐用年数を経過した建築物があふれ、懸念材料になってい

ることは言うまでもない。


▼40年で寿命を迎えるとは、人間に置き換えると悲しい話である。ただし、建築物は人間と違い、完

成し供用を開始することで、その目的を果す。完成した次の瞬間からは、老朽化に耐えながら、完成

時の形を維持しようとする。つまりは、完成する時期の違いである。人間であれば40歳で完成したと

は言い難い。


▼建築物が完成し、供用を迎えることで目的を果したとするならば、老朽化に耐え、完成後の形を維

持する姿は、武道でいうところの『残心』に似ている。


▼武道において『残心』とは、技を繰り出した後に相手の反撃に備える形。そのうち、弓道での残心

とは、矢の離れたあとの姿をいい「離れによって射は完成されたのではなく、離れの姿勢を崩さず、

気合いのこもったまま天地左右に伸張し、眼は矢所の着点に注いでいなければならない」とされ、

「残心は射の総決算である」とする。さらに、「一貫した射が完成されたときは、残心の善し悪しに

よって射全体の判別ができ、射手の品位格調も反映する」『全日本弓道連盟弓道教本より』


▼いわば、残心を含めてこその完成であり、建物にとって、成果を果し、取り壊されることは、美し

い残心であったと言えるだろう。耐用年数を超えた多くの建物が、完成時の残心の形をとり続けてる

今、問題が起こる前に、次の形につなげた時にこそ、最終的な完成を迎えるのでは。(新潟・HT)


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