2014/07/19
あの日の炎を受け継ぐ(埼玉・HM)
あの日の炎を受け継ぐ
▼2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、7月下旬にも国立競技場の建て替えの
ための、解体工事が始まる。学生時代、ラグビーの応援でよく訪れた競技場が取り壊されることは物
寂しい
▼競技場を長年見守ってきたのが聖火台だ。製造したのは、川口市の鋳物職人の親子だと知った。川
口市は「鋳物の街」として知られ、江戸時代から盛んだった鋳物産業を中心に発展してきた
▼直径、高さともに2・1m、重さ2・6tにもなる聖火台製造の指揮をとっていたのは、鋳物師の
鈴木萬之助さんだった。納期まで3カ月という厳しい状況の中、懸命に取り組んでいた萬之助さんは
製造の途中で亡くなった。それからは息子の文吾さんが父の遺志を受け継ぎ、寝る間を惜しんで作り
上げた。そして迎えた1964年の東京オリンピック。聖火台に火が灯った。日本中が熱狂した歴史
的瞬間だった
▼聖火台の下部には小さな扉が設置されている。扉の裏側には萬之助さんの名が刻まれているという。
聖火台はこれまで、文吾さんやその家族、競技場を使用するアスリートたちによって、半世紀の間、
磨き続かれてきた。19年3月完成予定の新競技場には新たな聖火台が設置される予定となっている。
数々の歴史を見続けてきた聖火台。修復を加えればあと50年は使えるといわれているが、引き継がれ
るとはいえ、引退させるのはもったいない気がしてならない
▼建設業界の技術も同じだ。建造物という形を残しながら次世代へ歴史と情熱が受け継がれていく。
聖火台に込められた思いのように、このような技術をつないでいかなければならない。(埼玉・HM)