コラム

2015/05/13

一人前の苦を味わう(群馬・AN)

一人前の苦を味わう


▼ある日、親しくしている建設業の社長を訪ねると、浮かない顔をしていた。社長から「息子が跡を継がないと言い出してね」と打ち明けられた。3代目になるだろうと確信していただけに、大きな落胆ぶりが伺えた


▼継がない理由を聞くと、建設業と公共事業に関するイメージの悪さに加え、従業員から聞こえてきた親族経営に対する批判だった。3代目の候補者は社長の長男であるものの、建設系の学科を学んだわけでもなく、いわゆる『文系』出身の大卒者だ


▼従業員からは、建設業の『け』の字も知らない若造が経営者の息子に生まれただけで、社長の椅子に座れることを強く批判されたらしい。祖父が初代なら、父は2代目といったように、地方の建設業は親族経営がそのほとんどを占めていると言える


▼自動車ディーラーの経営者を父に持つ友人がいる。父親が扱う自動車のメーカーに何年か修行に出掛けた。今は副社長の地位にある。確かに、息子であるが故、比べようがないほどのスピードで出世していることは事実であるが、さまざまな経営書の多読、人脈作りへ帝王学修養、終日重ねる営業活動の日々。彼には3歳になる長男がいるが、起きているうちに長男の顔を見られるのは、月に1回程度だという


▼「『ジュニア』と揶揄され、羨望で見られるうちは楽。経営の舵取りを任され、社員とその家族の幸せを考えられるようになったら一人前の苦」とは修業した友人の弁だ。この言葉を後継者で悩む建設業の社長へ伝えたところ、後日3代目候補が跡を継ぐという嬉しい知らせが入った。「一人前の苦を味わってみる」との返答とともに。(群馬・AN)


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