コラム

2016/10/22

左官職人の揺るぎない信念(茨城・EM)

左官職人の揺るぎない信念


▼左官一筋50年。茨城県左官工業連合会会長の根子清氏は嘆く。 「伝統的な工法、特に大工、左官、板金、家具・建具の技能習得には5~10年かかるといわれる。現代建築の設計図書には、これらの工事はほとんどない。伝統技能は手間暇がかかるため市場原理に合わず切り捨てられてきた」


▼最盛期には30万人いた左官職人も、今や5万人に過ぎない。根子氏は続ける。「重たいコテを使いながら壁を塗り平らに仕上げる。左官の技能は机上では学べない。経験することでしか身に付かない。非常に地味で忍耐が必要だから、若者は敬遠がちになる」


▼ただでさえ各産業、各業種とも担い手不足に頭を悩ませる昨今。左官は腕をふるう場が激減し、経験を積ませたくてもかなわない現状がある。「生産性、効率化を追求することは分かる。ただ、皆がなぜ伝統的建築物を訪ねるのか、なぜ古き日の建築に心癒やされるのかを考えてほしい。せめて公共的な施設には伝統工法の採用、『技能者を育てる建築』をお願いしたい」


▼根子氏は現在、伝統的な土壁・漆喰壁の機能と、現代の住宅事情に適した強度を併せ持つ樹脂無添加珪藻土壁の普及に努めている。「自然素材であり、湿気を吸い取るだけでなく、有害物質や臭気を吸着・分解し、空気を正常にしてくれる。軽くて火にも強い」


▼「建築物は、そこで過ごす人々の心身の健康の基礎となるもの。子どもたちが健やかに成長できる環境を未来に残す。これを先人から受け継いだ『左官』という伝統技能を通して具現化していきたいんだ」。穏やかな口調の中に、揺るぎない信念を感じた。(茨城・EM)


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