コラム

2018/06/28

コラムで繋がる人の縁(群馬・TH)

コラムでつながる人の縁


▼ある朝、支局の電話が鳴った。相手は国土交通省八ッ場ダム工事事務所の所長で、あいさつもそこそこに本題に入った。所長がよく顔を出す群馬県長野原町の川原湯温泉に土産物屋「お福」がある。そこの樋口ふさ子さんというおばあちゃんが、弊社の記者との再会を切望しているという内容だった


▼10年ほど前に当コラムで彼女を取り上げたことがあり、紙面をスクラップしているとのこと。手掛かりは担当者のイニシャル「群馬・NK」。その人は特定できたが残念なことに連絡がつかず、本人にこの話を伝えるには至らなかった。結果を所長に知らせ、話を終わらせることもできた。しかし、コラムを大切にする彼女のことが気になり、代理で会いに行くことにした


▼お店には元気なふさ子さんがいた。90歳になるという。代理で出向いたことを伝えると彼女はうれしそうに微笑んだ。「訪ねて来てくれて本当にありがとう。こうして人と話をするのが今の楽しみ」と言う。かつては川原湯温泉の老舗旅館「丸木屋」の女将だった。農家から嫁ぎ、一から学び数十年勤めた


▼ダム本体の建設工事は進む。2年後には完成し、ふさ子さんや多くの人にとって大切な土地は湖底に消える運命にある。「最近は少し寂しくなってきたけれど、訪ねて来る人がいる限り続けていく」と笑う


▼公共の利益のために、かけがえのないものを失う人がいることを忘れてはいけない。ダム完成後も生活再建と地域振興は大きな課題として残る。記者としてできることは限られるが、少しでも貢献したいという気持ちになった。このコラム掲載後、再び訪問しようと決心した。(群馬・TH)


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