コラム

2018/08/22

道具の進化と落とし穴(群馬・TH)

道具の進化と落とし穴


▼消えるボールペンが市民権を得てきた。式典などの記念品として配られることも珍しくない。インクに含まれる成分がラバーの摩擦熱に反応して消える仕組みになっているそうだ。書き損じや訂正が必要な際には非常に便利。間違えた部分を手軽に消せる機能はまさに夢のようだ


▼しかし、ある日問題が起きた。夏真っ盛り、車内の温度は急上昇する。この高熱にインクが反応した。手帳のスケジュールやノートの取材メモが部分的に消えてしまった。幸い、筆跡や前後の文脈で何が書いてあったかは復元できた。実害はなかったものの、想定外の事態に面食らった


▼弊害は他にもあるようだ。この消えるボールペンは公的な文章や宛名書きには使えない。先の例のように意図せず消えたり、もっと悪い場合は改ざんに利用される。実際に私利私欲のために悪用して逮捕された例も多数ある


▼この便利な道具を生み出すために、研究者たちが費やした年月は30年以上にわたる。地道に研究を重ね、いくつもの課題を乗り越えた末に商品化された。そして、その研究に終わりはなく、より使いやすい筆記用具を目指して改良が行われている。やがては炎天下の車内に放置しても問題のない商品が誕生すると確信している


▼研究者の苦労と情熱は尊敬に値する。まさに血のにじむような努力の末に生み出される道具。そんな道具を開発者の意図に反する使い方で悪用する行為があるというのは本当に悲しいことだ。道具の進化は私たちの生活を豊かにする。かつてノーベルが開発したダイナマイトを戦争で利用してしまった過ちを繰り返してはならない。(群馬・TH)


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