コラム

2020/06/25

千円札の肖像から(群馬・YY)

千円札の肖像から


▼先日、ATMで現金を下ろし、出てきた千円札を財布にしまおうとすると、絵柄に違和感を覚えた。確認すると夏目漱石が描かれた旧札であった。野口英世の肖像が採用された現行紙幣の登場で姿を見かけなくなってから15年近く。2024年からは近代日本医学の父、北里柴三郎が新たな千円札の顔になる


▼夏目漱石に野口英世、北里柴三郎。いずれも文学と医学の歴史に大きな足跡を残した偉人。文学と医学。文系と理系の垣根から両者を結び付けるのは難しそうだが、医療者教育の一分野に医療人文学がある


▼文学や芸術に触れ、人間性を高めることで患者の立場に立った医療を実現させようというもの。1960年代のアメリカで提唱され、日本の医療者教育の場でも取り入れられている。闘病をつづった小説は医療倫理の点から、講義の題材として用いられることが多いと聞く


▼建設業と文学の親和性も高い。長野県大町市にある高瀬ダム建設を描いた曽根綾子の「湖水誕生」や東海道本線丹那トンネルの完成までを追った吉村昭の「闇を裂く道」など、建設業にまつわるさまざまな文学作品がある。人々の豊かな暮らしを実現してきた建設業の事績を伝えるため「建設人文学」という学問のジャンルがあっても良いかもしれない


▼夏目漱石は学生時代に建築家を志していたという逸話がある。そのためか作品に出てくる都市や建築の描写は緻密で、明治期の日本の街並みが読者の眼前に浮かぶ。千円札の顔は、野口英世から北里柴三郎と連続して医学者へとバトンタッチされる。いつしか建設業にまつわる人物が採用される日が来ればと期待する。(群馬・YY)

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