コラム

2020/08/18

歳をとっても冒険心(長野・HK)

歳をとっても冒険心


▼地元紙を斜め読みしているとき、懐かしさからか丸山健二の文字に目が留まった。胸を張ってコアなファンと言える者ではないが、当時の最年少で芥川賞受賞後は長野県大町市に居を構え、中央の文壇から距離を置いて庭づくりに精を出しながら執筆を続けているとの認識は持っていた


▼紙面につづられていたのはコロナ禍の現状を作家としてどう見るかが語られたインタビュー記事。同氏は「日本人が正気に戻るチャンス」と捉え、国や社会に依存して何となくの生き方をしてきた日本人に「自立の精神」を持つよう促している


▼執筆活動は早朝の2時間のみだそうだが、1年365日毎日それを続けるストイックな生活。年齢のためか修行僧のような様相にも優しさを帯びてきたように感じもするが、純文学を追求する姿勢には揺るぎがない。毎日の作業を自ら「文体というドリルで掘り進み宝石を見つける」と例える。己を律しながらも、宝探しを楽しんでいるようにも聞こえる


▼インターネットで調べると、芥川賞受賞時の選考委員には三島由紀夫や川端康成、井上靖などそうそうたる面々が顔をそろえる。委員誰しもが推していたわけではなく、若さを評価する一方で、年齢のわりには落ち着きすぎて、若さ故の冒険心とかいやらしさに欠けている点が指摘されているのが面白い


▼正気に戻るかどうかは別にして従来の暮らしと変貌してきていることは誰もが感じるところ。価値観や常識が一変しかねない新しい時代を自立して歩むには、障害を取り除くドリル並みの道具とくじけることのない冒険心が必要ということかもしれない。(長野・HK)


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