コラム

2021/10/12

恩人を追いかけて(山梨・HI)

恩人を追いかけて


▼取材先で恩人と言える記者がいた。普段は落ち着いた様子だが、取材に入ると要点を的確に押さえた質問。誰からも慕われ、その人の発言には、地元の記者陣だけでなく取材相手も一目置くほどだ。そんな記者が定年退職した


▼眼鏡ストラップがトレードマークだった。赴任したての頃は、地域の関係性や特徴、取材の仕方などを教わった。崖崩れの被災現場。自前で脚立を担いでいる姿に「なんで持ってきたんですか」と聞く。分かりやすい写真を撮るためと一言。あらゆるケースに備えて、常に脚立などの道具を車に準備しているという。その気構えがまぶしかった


▼担い手確保に奮闘する会社の社長にインタビューをする機会があった。その社長にも恩人がいた。ある建築系の大学教授である。娯楽も働く場所も選択肢が多くなった現代。建設業界も担い手確保に必死な中で、教授は、堅く難しい印象を受ける建設業界の用語に疑問を呈した。「もっとポップでキャッチ―な言葉を」と。その助言は社長の原動力となり、若手の呼び込みにつながる戦略を追求することに至った


▼若手社員にも恩人がいたと社長は続ける。きつい。つらい。自分の思い通りにならない。辞めると決心した社員が辞表を取り下げたことがあったそうだ。職場の悩みは一人だけで消化することは難しい。心の支えとなったのが同期や先輩だった


▼恩人が記者を引退してから1年がたつ。山で例えると、山頂と麓。いつかその頂きに到達できる日を夢見ている。富士山頂に簡単には登れないように、一歩一歩足場を確かめてながら、ひたすら恩人の背中を追いかけたい。(山梨・HI)

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