インタビュー

2012/07/18

日本財団会長 笹川陽平氏 インタビュー

◎日本財団会長 笹川陽平氏


 日本財団の笹川陽平会長がミャンマーの少数民族福祉向上のための大使として外務省からこのほど

委嘱された。民主化へと舵を切り、今、歴史の曲がり角にあるミャンマー。現軍事政権と抗戦を続け

る少数民族との平和的な「統一」がない限り、「真のミャンマーの発展はない」と言い切る。インフ

ラ投資が集中する都市部が「光」とすれば、少数民族が住む地域は「影」と表現する。この影の部分

に光を当てるために、大使としての行動が始まった。

   ◇

 ―先般、玄葉外務大臣から「少数民族福祉向上大使」として委嘱状が交付されましたが、具体的に

はどのような取り組みをされるのですか。

 笹川 大使としての取り組みは3つ柱がある。1つは、次世代を担う人材の育成として教育環境の

整備。2つ目は、医療サービスの提供。3つ目は農業開発。この3つは同時並行して実施しなければ

意味がない。学校建設はミャンマー最大の少数民族州のシャン州において今年末までに累計で小学校

200校を完成させる。今年度からラカイン州にも対象地域を拡大し、今後5年間でシャン、ラカイ

ンの両州で新たに合計200校、累計で400校の小学校を建設する予定だ。各校には児童用の伝統

医薬品の「置き薬」を配置し、児童を対象にした保健衛生指導教育も実施する。

 すでにミャンマーの医療過疎地域で、安価で安全性の高い伝統医薬品を使った置き薬を2014年

末までに2万8000カ所の村に配置する計画だ。1000万人以上の利用者を見込んでいる。カイ

ン、モン、シャン、カチンの4州で原材料となる薬草の栽培指導を行い、収穫物の全量を購入する。

また、モバイルクリニックによる医療サービスも検討している。医療器具を積んだモバイルユニット

を5年間で10台準備し、研修を受けた医師・看護師が辺境地域に住む少数民族を訪問し、診察、治療、

外科手術などの医療行為を実施する。このほか義足装着の支援も行う予定だ。


 ―現在、ミャンマーには130以上の少数民族がいるといわれます。今の軍事政権と抗戦していま

す。政情不安の中で事業を進めるのは大変な苦労があると思いますが。

 笹川 一財団がミャンマーの少数民族全員に援助するというのは難しいことだ。JICAや国際的

なNGOにも支援していただきたいと思っている。少数民族から「学校が建った」「薬が手に入った」

と、目に見える援助の形を作って上げることが大事であり、そうでないと信頼関係は築くことはでき

ない。


 ―目に見える形で援助されている中で、少数民族の意識の変化みたいなものはありますか。

 笹川 国連も世界中の途上国に対して学校を建設するが、建てるだけで終わっている。我々は村を

訪問し、学校建設にどのくらい熱意があるのか、建設に参加するのか、しないのか、といったことを

議論し、本当に熱意のある村から学校を建てることにしている。学校建設には住民にも協力してもら

い、資材や労働を提供してもらう。完成したら住民に働いた分の賃金を支払う。住民たちはそのお金

で村落開発事業として養豚、養鶏を始め、簡易水力発電機を購入して電気を地域に供給している。ま

た、学校の先生の給与に充て、学校運営にも携わっている。そこに薬箱を置けば、保健教育ができる。

薬草は付加価値が高く、薬草から作った薬はいくらあっても足りない。置き薬の普及で薬草の大幅な

需増が見込まれるので、安定した薬草の確保が今後、必要となる。少数民族にトレーニングを実施す

ることで、高品質な薬草が栽培できるし、栽培されたものは全量、買い取るので収入向上につながっ

ている。また、日本財団の伝統医療アドバイザーは、10年以上にわたりカチン州で薬草栽培事業を実

施した経験もあり、保健省伝統医薬局との協議の上、カレン州、モン州、シャン州で薬草栽培のモデ

ル地区を構築することを検討している。


 ―ミャンマー政府が民主化に舵を切ったことで、日本企業を含め世界中の企業が進出しようとして

います。しかし、インフラ投資はヤンゴンなどの都市部に集中し、少数民族との格差は一層、拡大し

ています。この現象をどう見ていますか。

 笹川 世の中には光と影の部分がある。民主化の方向に舵が切られ、諸外国から鉄道、港、道路、

発電所、上下水道などあらゆるインフラが都市部に投資されようとしている。それに伴い雇用も促進

されて生活レベルも上がっていく。しかし、辺境地域に住む少数民族は影の部分になって光が当たら

ない。ミャンマーが民主化の方向に向かっているとはいえども、少数民族に何の恩恵もないというこ

とになると、ミャンマーの国家統一は難しいのではないか。

 今も少数民族の一部のグループは軍事政権に対し不満を持っている。都市部との格差がますます広

がると、国の統一はさらに困難になるだろうと予測される。テイン・セイン大統領、アウン・サン・

スーチー氏とは、共に少数民族問題を最重視されていることを昨年12月の面会で確認している。民族

統一なくして、真のミャンマーの発展はない、と思っている。


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